2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12445
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上田 貴洋 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (70294155)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 照彦 大阪大学, 文学研究科, 教授 (10249906)
中久保 辰夫 大阪大学, 文学研究科, 助教 (30609483)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 焼物類 / 気体吸着法 / 細孔特性 / 機械的性質 / 多孔性文化財資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
土器や陶磁器など焼物類の製法や焼成条件(温度、雰囲気、焼成法など)は焼物の形状や色をもとにした推定に留まっており、それらを特徴付ける定量的指標はない。一方、焼物類はその焼成過程において細孔形成が知られており、細孔容量や細孔径分布など細孔特性を表す定量的指標を用いることで、焼物類の製法や焼成条件に関する議論が可能であると考えられる。本研究課題では、北摂地域の重要な遺跡である待兼山遺跡から出土した焼物類(土師器、須恵器、埴輪)の破片などを用い、気体吸着法を中心とした細孔分析によって焼物の特性を細孔構造の面から議論するとともに、多孔性文化財資料の物性評価に耐えうる定量的指標作りと新しい評価法の確立を目指す。 平成27年度は、1)種類(土師器、須恵器、埴輪)や生産された年代(弥生時代、古墳時代、飛鳥・奈良時代)を考慮した焼物片資料の選定と、選定した資料の2)機械的性質および3)熱的性質の評価を行った。 1)待兼山遺跡出土焼物片を、種類別、生産年代別に分類し、細孔分析に供する資料を選定した。申請時に予定していた弥生土器、古墳から奈良時代にかけての土師器、須恵器、埴輪に加え、最新出土資料である室町時代土師器、江戸時代の陶器・陶磁器、昭和初期の煉瓦を含めた(合計26点)。 2)硬度計を選定し、シュミットハンマー(L型、PT型)によって焼物資料の硬度をはじめとする機械的性質の評価を試験的に行った。 3)焼物資料について、熱重量分析(示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA))を行い、加熱による気体等の発生や相変化の有無について調べた。その結果、いずれの焼物資料も800℃までの加熱によって有意な重量変化や熱異常は見られず、熱による組成変化や構造変化は起こさないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
資料選定については、申請時より焼き物の生産時期を広げ、種類も増やすなど、通時代的、種類横断的な比較が可能となるよう工夫した。 また、硬度計側に関しては、シュミットハンマー(L型、PT型)が薄い陶器や土器を対象として適しておらず、煉瓦以外の個体では器壁の薄さゆえに資料が破損することが判明した。しかしながら、煉瓦資料を用いた実験では、異なる工場で生産された煉瓦に硬度の違いがみられ、近代窯業生産において工場ごとの品質に差異がある可能性が考えられた。この点の硬度の差違と細孔分析の結果の比較が求められる。 焼物資料の前処理条件を見つけるための熱分析に思った以上の時間がかかってしまった。今後、より測定に時間を要する吸着実験を効率的に進めるため、研究補助員等を有効に活用したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果によって明らかとなった焼物資料の熱的特性をもとに、平成28年度以降では、細孔分析に必要な前処理(加熱、脱気処理)を行い、窒素吸着等温線測定による細孔分析を進める。得られたデータを種々の方法(BET比表面積、Langmuir比表面積、t-プロット解析、BJH法によるメソ細孔の解析、MP法によるマイクロ細孔の解析等)で解析し、焼物資料の細孔特性を明らかにしてゆく。細孔分布が極めて大きく、窒素吸着等温線法が有効でない場合には、気体吸着法よりもやや大きな細孔径まで測定ができるサーモポロメトリーや水銀ポロシメトリーも検討したい。 得られた細孔特性を焼物の種類や製作年代で比較し、細孔特性の観点から焼物の特徴についての議論を試みる。場合によっては、分析資料を増やすなどの対策を考えている。硬度計側を中心とした計測器に関しては、引き続き選定と試験的計測を続けて、硬度に関するデータと細孔分析の結果との相関について考察したい。また、煉瓦についての硬度計測は十分に有意性を示しているため、近年、考古学分野で研究が進んできた近代煉瓦研究の中での活用法なども検討することを目指す。
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Causes of Carryover |
本研究課題において、購入予定であった簡易型の機械特性(硬度)評価装置(L型 軽量コンクリート用テストハンマー;259,200円、シュミットコンクリートテストハンマーPT型;81,605円)が、当初予定していた購入価格より安価であったことと、資料整理に予定していたアルバイトの雇用人数が減ったため、当該助成金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該助成金の効果的かつ有効な使用として、資料評価の実験補助にあたるアルバイトを雇用し、進捗が遅れ気味であった当該研究課題を促進を図る。
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