2016 Fiscal Year Research-status Report
持続的観光への展開を目指した協働型登山道維持管理プラットフォームの構築
Project/Area Number |
15K12451
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邉 悌二 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (40240501)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 観光地理学 / 持続的観光 / 国立公園管理 / 登山道荒廃 / 大雪山国立公園 / 持続可能な開発 / 少子高齢化社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,山岳国立公園における協働型登山道維持管理に関わる問題点の解明とその解決への方策を探り,持続的な協働型登山道維持管理のプラットフォームを構築することを目的とするもので,2年度であるH28年度には以下の調査を行った。 夏期(H28年7~9月)の旅行者(国内および海外からの旅行者)約2,000名に対して,黒岳山頂および旭岳ロープウェイ下駅において,登山道に関する「大雪山グレード」やジオパーク(期待するジオ資源)に関するアンケート調査を行った。10月30日~11月4日には,中国西安市南部のグローバル・ジオパーク(国立公園の一部)で登山道維持管理に関する調査を行い,大雪山国立公園との比較を行った(成果の一部は,H29年4月発行の日本山岳会北海道支部会誌で公表)。さらに,大雪山国立公園において,地上写真ならびにドローン(UAV)を用いた登山道の3次元荒廃調査法の開発に関する継続調査を行った。 また,H29年4月発行の英語地図Asahi-dake, Heart of Daisetsuzan National Parkの中に登山道荒廃と維持管理の概要について執筆し、環境省の「大雪山グレード(登山道のクラス分け)」の英語解説文の執筆および地形図上でのグレード区分作業を行った。 今年度の研究成果は,7件の学会等での口頭発表の形で公表した。このうち,H28年8月には,北京で開かれた国際地理学会議の山岳コミッションにおいて,ポーランド・アダムミツキゥヴィチ大学のアレクサンドラ・トムトゥクと共同でセッションを開催した。この中で,大雪山国立公園で実施されている登山道荒廃解析に関する研究と,台湾およびポーランドでの研究の比較を通して,日本の山岳国立公園に適した登山道の維持管理には,利用者(観光客)の参画が不可欠であり,今後,利用者をどのように巻き込んでゆくのかについての議論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,山岳国立公園における協働型登山道維持管理に関わる問題点の解明とその解決への方策を探り,持続的な協働型登山道維持管理のプラットフォームを構築することを目的とするもので,H28年度には以下の調査を行うことができた。 将来の少子高齢化社会の中で,どのように大雪山国立公園の登山道維持管理を継続させることができるのかについて,いくつかのシンポジウムやフォーラムなどで,住民を交えた議論を行うことができた。大雪山グレードの認知度は,合計2,000人ほどの国立公園利用者へのアンケート調査の結果からは,経験のある登山者と一般観光客とでは著しく異なることがわかったが,これは登山道荒廃問題の認識の割合の違いとも一致している。これまでのボランティアへの依存だけでは将来の持続性は見込めず,新しい利用者層・グループの開拓が必要であることがわかってきた。また,大雪山国立公園では10-20%の訪問者が外国人であると推定されることから,外国人対応をどのように進めていくべきかについても議論を行う必要がある。 登山道維持管理データベースの作成については,スマートフォンを用いたアプリ作成によって誰でもが参加できるようにしてゆくことが現時点では最良の方法であるという結論に至ったが,現状ではどのような内容のアプリにすべきか,多くの関係者との間での調整が必要であることが明らかになってきたところである。 荒廃データの取得についても,3次元データを登山道利用者が集めるには,やはり登山道上で手持ちカメラを用いて写真を撮影することが現実的であり,この手法をより多くの登山者に体験してもらって,手法の確立を行うことが必要があることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度には,大雪山国立公園において,夏期の旅行者(国内および海外からの旅行者)に対するアンケート調査を継続して行い,協働型登山道維持管理に関わるステークホルダーからの聞き取り調査を継続する。大雪山国立公園を含めた事例研究地域について,現在の登山道荒廃データおよび維持管理手法(工法)に関するデータベースを作成し,ウェブサイトの開設による全国の山岳国立公園への波及と全国データの収集を行う。 これらを総合的に,かつ持続的に実施するには,受け皿となる組織を構築することが望まれる。どのような組織が適しているのか,民間レベルと環境省レベルの両方で議論の場を設定して,近い将来に登山道の維持管理を主要事業とする組織を立ち上げる議論を進めていきたい。 また,大雪山国立公園の将来の利用者減少を想定して,観光を推進させる一つのツールとしてジオパーク化について,さらに考察を深める。西安南にあるグローバル・ジオパークを大雪山国立公園に当てはめると,とかち鹿追ジオパーク,美瑛・上富良野の「十勝岳ジオパーク構想」,そして旭川から東川・上川を含めた広域からなる「神居古潭からカムイの大地ジオパーク構想」の3つのジオパーク(地区)を大雪山国立公園とその周辺地域でまとめたようなものである。地元にはこうした視点が皆無であることから,地元関係者への周知活動を行っていきたい。 上述のように,H28年に北京で開かれた国際地理学会議において,アダムミツキゥヴィチ大学のトムトゥクと開催した共同セッションで,いくつかの国・地域での研究比較は行われたが,このセッションの共同実施の成果を踏まえて,H29年4月にオーストリアで開催される欧州地形学連合大会において次の共同セッションを提案することおよび学術誌で特集号を企画する準備を進めることとなった。
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