2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K12525
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
山口 栄雄 神奈川大学, 工学部, 教授 (20343634)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | DNA / 核酸 / PCR / 振動 / 増幅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、DNA水溶液の入ったプラスチックチューブ全体を可聴周波数で高速に振動させることにより、DNA増幅を高速かつ低温で実施可能な新技術を開発することを目的としてきた。重要点は、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で用いられている100℃近い高温加熱を用いたDNAの熱変性に替わり、本研究者が見いだした振動法によるDNAの変性を用い、それに続くアニーリング・伸長反応による新しい手法のPCR法である。DNA増幅の進行温度は、37℃という生命体恒温温度を維持した等温で実施した。これにより、従来技術で指摘されていたDNAや酵素の損傷を防ぐことが期待でき、更に、増幅完了までに要する時間が従来の2~3時間から秒単位へと桁違いに短縮することが原理的に可能となる。 具体的な実験構成は、試薬入りチューブを高速振動させる振動子装置を自作し、これを用いて、まず、λDNAの振動変性実験を実施し、変性を確認することから行った。ゲル電気泳動後のSYBRGreenⅠ及びSYBRGreenⅡによる染色を経て、λDNAの振動による変性を再現性良く確立していることを確認した。ここから、振動装置の改良のために、この変性実験と振動子の周波数や振幅との関係を変性機構に絡めて理解する必要があるため、この現象の理論と変性実験との比較検討を行った結果、下記のようなモデルを提案した。振動によりDNA が受け取った全エネルギーは、振動子の周波数の三乗、及び振幅の二乗に比例することを見出し、検証を行った。なお、振幅の大きさは、レーザードップラー振動計により実測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最も強力で広く用いられているDNA増幅法はPCR法(熱PCR法)であるが、通常、94℃:熱変性、54℃:アニーリング、72℃:伸長の3種の温度間で熱サイクルが必要となる。とくに、DNAを変性させるために、94℃という高温加熱を必須としている点が問題となっており、この高温下での化学反応のため、DNAや酵素の損傷、及び熱サイクルを用いることにより長時間を有し、長時間高温にDNAがさらされることで更に損傷が進む等の大きな問題が指摘されている。一方、等温でのDNA増幅法である他の手法も用いられているが、65℃程度の高い温度で等温維持が必要であり、増幅時間も1時間程度であることから、PCR法と同様の問題を有している。これら従来技術に対して、本研究課題では、熱に替わり、振動によるPCR法(振動PCR)を見出し、検証実験を行ってきた。この振動PCRで用いた水溶液試薬内容は以下のものを基礎とした。バッファ、dNTP Mixture、Control Primer (Control Primer A:配列番号1、Control Primer B:配列番号2)、Klenow Fragment、λDNA(鋳型DNA)、H2O。なお、配列番号1の配列は、5’-GATGAGTTCGTGTCCGTACAACT-3’、配列番号2の配列は、5’-GGTTATCGAAATCAGCCACAGCGCC-3’である。上記反応液マイクロチューブに入れ、1サンプルとした。サンプルである核酸水溶液に振動板からの振動が鉛直方向に伝達する状態において、130Hz(波形サイン波)で、15秒振動を与え、その後、15秒静止した。振動15秒、静止15秒を1サイクルとし、3、5、7のサイクル数で実験を行った。温度は37℃に一定に保って行った。振動を与えないサンプルと比較してサイクル数の増加とともにより明るく、即ち増幅した結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
37℃という生命体の活動温度でのDNA増幅を可能とするため、水溶液中のDNAや酵素などへの熱的ダメージが大幅に減少することが期待できる。また、単細胞、動植物及び人の体温近傍に反応温度を維持するため、酵素が最も活発に反応することを利用できる点も大きい。現在本研究で使用している酵素は大腸菌由来のKlenowであるが、これはボルテックスなどの振動による高加速度状態に置かれると3次構造が壊れ、失活することが分かっている。この影響を軽減あるいは回避するために、酵素の安定性と活性のバランスを取るため、[Mg2+]と[Na+]濃度を調整したオリジナルバッファの適用を使用する。 一方で、このKlenow Flagmentは、大腸菌由来のDNAポリメラーゼ酵素であり、大腸菌内での複製スピード1000bp/secが期待できる。この数値から見積もると、通常のPCRと同様に25サイクルを行う場合、1検体当たり10秒程度によりターゲット部のDNAの増幅が完了することが理屈上可能となる。即ち、従来速度に対し、1/1000に時間短縮できることを意味する。ただし、この数値は、アガロースゲル電気泳動で検出・確認するために十分バンドが明るくなることを前提としている。実際には、振動により酵素が漸次不活化する可能性が考えられるため、効率が落ちることを考慮し、60秒を切る時間での実現をまずは目標としたい。今後は、短いDNAに対しては、高精度なDNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置を用いて確認することも予定している。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた実験に必須の機器を購入した以外は、経常予算によってまかなうことができたので、若干の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
複数の酵素類を混合させる実験計画を立てたため、そのための消耗品費として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)