2015 Fiscal Year Research-status Report
光硬化法を用いた革新的な血管内液体塞栓術の研究開発
Project/Area Number |
15K12535
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大石 正道 東京大学, 生産技術研究所, 技術専門職員 (70396901)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
早川 基治 藤田保健衛生大学, 医学部, 准教授 (40319257)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 動脈瘤 / 塞栓術 / 光硬化樹脂 / 血管内治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、動脈瘤内部に塞栓物質を充填させて瘤の破裂を防ぐ、「塞栓術」と呼ばれる血管内治療法に対し、塞栓材料として新たに液体の光硬化樹脂を用い、血管内で光を照射して硬化させる「光塞栓術」の開発を目的としている。本手法は、硬化のタイミングと位置を制御可能とする画期的な技術で、手術失敗のリスクを低減させるだけでなく、より安価で安全な塞栓物質を用いて患者の負担を減らし、また塞栓術市場における国際競争力を高める経済的効果も期待できる。研究計画として初年度は「塞栓材および光カテーテルの開発」を、次年度に「画像診断装置を用いたモデル実験による実現可能性の検証」の2つのステップに分けて研究を推進していく。 現状のコイル塞栓術における問題点(高額の材料費や低い充填率)を解消するために、液体の塞栓物質を瘤内に充填して硬化させるアイディアは、すでに多くの手法が研究されている。この手法のチャレンジ性は「いかに瘤内に十分な充填率で安定的に設置」し、「瘤外や下流に硬化物を発生させないか」という2点が特に重要である。しかし、従来の液体塞栓法においては、塞栓物質を充填したそばから硬化反応が始まることが様々な不具合を引き起こす原因となっているため、充填と硬化の2つの現象が切り分ることにより、それぞれの個別制御を目指している。 2カ年計画の初年度である本年度においては、塞栓材および光カテーテルの開発を主に行い、塞栓物質はベースとなる基材と、光開始剤や造影剤などの機能を付加する添加物を調合して開発し、その機能性やハンドリング性を評価した。塞栓物質を目的の位置に注入し流出を防いで滞留させる技術、および硬化させる光の時間的・空間的な照射制御についても、透明な瘤モデルを用いて画像計測を行うなど、実験環境の構築も着実に進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していたStageⅠ:塞栓材および光カテーテルの開発、に対し、1-1) 塞栓物質の選定、1-2) 添加物の調合と物性コントロール、1-3) 光カテーテルの光学設計、1-5) 硬化実験について試行錯誤を繰り返し、多くの進展が得られた。 塞栓物質として可能性のあるキトサンゲルの他にアクリル系樹脂などをリストアップし、それぞれの物性を比較・検討した。塞栓物質の物性は、実際に血管内に注入する際の流動コントロール性能に大きな影響を及ぼすため、1-2)において粘度や比重調整を行いながら、瘤部のみの実験モデルを用いて流動実験を行った。1-3) 光カテーテルの光学設計においては、塞栓物質の注入と露光を別のカテーテルとすると、2本の相対位置が固定されず、照射(硬化)位置のコントロールが難しくなるため、1本のカテーテルに注入と露光の機能集約を試みた。現状では手術に用いられるカテーテルに同軸で光ファイバを通す機構を作成し、カテーテル先端で塞栓物質の硬化を実現できている。1-5) 硬化実験では内部を観察できるアクリルで瘤モデルを作成し、硬化に関する基本的なパラメータの取得を行った。具体的には光強度と硬化時間の関係や、硬化可能な照明と塞栓物質の距離の情報、硬化可能な瘤内での滞留時間などを計測した。 また、上記の光硬化術の開発と平行して、現状のコイル塞栓術に関する改善可能性も検討した。具体的にはコイルに用いる新しい素材や、離脱方法の検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、研究計画1-4) 塞栓物質の流動シミュレーションを行い、カテーテル先端から瘤内に注入される液状塞栓物質の拡散や、下流に流出したりする不具合の予測を試みる。申請者の過去の研究から、瘤内の流れは瘤自体の形状だけでなく、その上・下流の血管形状にも大きく依存することが分かっている。さらに、実際の症例は千差万別であることから、オーダーメード治療の必要性は高く、流動シミュレーションは必須であると考える。具体的には、塞栓物質の瘤内部での滞留時間を長くし、過剰な拡散を防ぐためのパラメータスタディを試みる。シミュレーション手法としては、トポロジー変化を伴う混相流を精度良く解くことができる粒子法を検討している。 注入および硬化の制御方法が確立された時点で、1-6) 塞栓物質の生体適合性と安定性の評価、StageⅡ:画像診断装置を用いたモデル実験による実現可能性の検証における2-1) 手術シミュレータを用いたモデル実験、2-2) 画像診断装置を併用したモデル実験、へと研究を進めていく。1-6)では、硬化させた塞栓物質は長期に渡り生体内で安定性を示さなければならない。特に樹脂やゲルなどの高分子は多孔質の構造を持つことが多く、周囲との浸透圧差などにより体積が増減する可能性がある。特に縮小した場合は血流の再開通につながる恐れがある。ただし、最初から動物実験では様々なケースや長期試験が困難なことから、まずはインキュベータなどを用いて周囲の温度や湿度、pHなど生体環境を模擬した長期評価を行う。 StageⅡにおいては、ファイン・バイオメディカル株式会社が製作しているカテーテル手術模擬モデルを用いて、全身の循環を考慮した実験を行い、そのモデルと医用画像診断装置と併用することで実際の術中の見え方(造影)との比較を行う。
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Causes of Carryover |
研究メンバー間の打ち合わせのために計上していた国内旅費が、打ち合わせ内容の変更に伴い、打ち合わせ場所と参加人数を変更したため、差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
打ち合わせのための国内旅費として使用する。
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Research Products
(1 results)