2016 Fiscal Year Research-status Report
医工目利きの客観化のためのマッチング評価基準の構築
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15K12568
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷下 一夫 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 客員上級研究員(研究院客員教授) (10101776)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 医療機器 |
Outline of Annual Research Achievements |
医療ニーズと技術シーズのマッチングに資する評価基準を示すためのさらなる調査研究を行った。平成28年度は、実際の事例を中心に評価基準の検討を行った。平成28年度では、複数の医工連携支援機関による医療ニーズの発表会が行われ、実際に医療現場から提案されている医療ニーズの具体的な事例が公表されている。具体的には、東京都医工連携HUB機構などによって医療ニーズが収集されている。そこで、本研究では、公表されている具体的な事例に基づき、マッチングの基準を検討した。さらに、医療機器開発の実務経験のある様々な分野の専門家に集まって頂き、ニーズとシーズのマッチングに関して提言して頂き、異なる専門分野の立場から討論をして頂くワークショップを開催して、大変興味深い見解を収集する事が出来た。討論に参加された方の専門分野は、臨床医学、工学、経営学、医療企業、社会文明学、医療マネジメント、イノベーション学であった。その結果、事業化に結びつく医療ニーズと技術シーズとのマッチングを成功させるためには、異分野の境界を如何に超えられるかが大きな課題である事が分かった。質のよいニーズの確保が大事であり、ニーズの本質的な理解によって解決策(つまりマッチング)が変わる。異分野融合の場合には、情報の粘着性が影響を与え、頭の中にあるアイデアが外に出にくい。そのために情報の真意が伝わりにくい。それらを解決するためには、人間関係の構築が必要で、異分野での信頼関係が達成されれば、情報の真意が伝わりやすくなり、即ち異分野の境界を越える事が可能になる。異分野の境界を越えるための仕組みが極めて重要である。異分野の境界を越えることにより、医療ニーズを最適に近い解決策に結びつける事が可能になるが、どのように境界を越えるかは、医療ニーズの具体的な内容によって大きく変わるので、普遍的な基準を見つけるのは困難である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医療ニーズを発掘する場が、急速に増えているため、ニーズ収集が容易になってきた。臨床医学の学会大会での医工連携交流、医療現場での直接体験、医療者から医療現場の実学を学ぶサロンの開催、医療機関での交流会さらに医療機関内に工房を設置して、定常的に医療現場のニーズを発掘する仕組みが試みられている。このようなニーズ発掘の機会が平成28年度で急激に増加した事は極めて興味深く、医工連携に対する医療者側の認識が高まっていると考えられる。例えば、東京都医工連携HUB機構による医療ニーズの数は、平成29年3月現在では、343件となっている。これらは、全てWEBで公開されており、面談希望の場合には、WEB上で簡単に申込める仕組みが整っている。東京都の医療ニーズ発掘は、極めて短期間に343件もニーズが集積されており、医療機関側との密な連携の結果と思われる。その結果として、提案されてニーズに対するマッチングの商談の数も急速に増えている。知財性のために、マッチングの内容に関しては把握する事が出来ないが、提案されているニーズの数から、相当な数のマッチングが行われていると想像出来る。本年度における医療ニーズ集積の加速化は、本研究としては、極めて興味深い事例として取り上げた。実際のマッチングの内容把握が知財的な面から把握出来ないので、過去の成功事例に関して、マッチングの要因に関して検討を行った。さらに、28年度の最後に、開発経験を持つ専門家集団によるワークショップを開催して、様々な分野からの討論を行い、医療ニーズに対する取り組みやマッチングの手法の多様性を理解する事が出来た。さらに、具体的な事例調査の一つとして、研究代表者が過去に実績のる脳動脈瘤に関する診断治療デバイスのデザイン可能性の検証として、マテリアライズ社のソフトを用いた。
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Strategy for Future Research Activity |
最近の医療ニーズ発掘の動きは急加速している。さらに、医療機関内での医療機器開発の工房設立も始まっている。スタンフォード大学の近くにあるエルカミノ病院の中に、フォガティー医師が医療機器開発の研究所を設立させた。Fogarty Institute for Innovation, FIIという研究所である。何故病院の中に研究所を設立させたかの理由は明白で、医療現場のニーズを迅速に開発に繋げる事である。研究代表者は、2012年にFIIを見学させて頂いたが、感銘を受けたのは、研究所の中に患者が感想を述べるための応接室が用意された点であった。Fogarty医師のモットーは、患者が第一(Patient first)という言葉であり、患者が新しい医療機器によって、楽で効果的な診断治療が出来ているかの検証に極めて力を入れている。患者の視点は、残念ながら、日本の医工連携や医療ニーズ発掘の中で、まだ明確に取り入れられていない。患者の視点も今後医療ニーズを考える時に重要な要素ではないだろうか。
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Causes of Carryover |
本研究の締め括りとして、医療機器開発の経験のある複数分野の専門家によるワークショップを開催して、各専門分野から医療ニーズと技術シーズのマッチングに対して、見解を述べて頂き、熱心な討論が行われた。このワークショップで極めて重要な課題が提起され、十分な検討を行う事が極めて意義が深い事がわかり、ワークショップの内容検討を2017年度に延長して継続する事とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ワークショップでの講演や討論のテープ起こしをして、それぞれの専門分野を考慮して、提起された考え方を分析する。テープ起こしの手数料と、内容分析のための消耗品などに使用する計画である。
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