2016 Fiscal Year Research-status Report
脳卒中患者の半側空間無視の予後診断~MRI脳画像を用いた実用的手法の開発~
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15K12590
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
小山 哲男 兵庫医科大学, 医学部, 特別招聘教授 (40538237)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
道免 和久 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (50207685)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脳卒中 / 予後 / 脳画像 / 拡散テンソル法 / 無視 / 麻痺 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳卒中は罹患患者が多く、また上下肢機能や認知機能に後遺症を残すことが多く、要介護状態の原因疾患の第1位を占める疾患である(平成22年度調査)。脳卒中患者の主要な症状の一つに「無視症候群」がある。これは患者の身体周囲の空間(半側空間無視)、患者の身体、あるいは自らが麻痺等の症状を持っていることに注意が及ばない症状で、しばしば機能回復のためのリハビリテーションの妨げとなっている。
効率的なリハビリテーションを行うにあたり、個々の患者ごとに、無視症候群(半側空間無視を含む)がどの程度回復するのか見立てること、すなわち予後診断が必要になる。しかしこれまで、再現性の高い診断方法は確立されてない。本研究の目的は、MRI脳画像により脳内神経線維の損傷を定量化し、半側空間無視をはじめとする無視症候群との関連を検討し、予後診断の基礎的知見とするものである。
今年度の研究進捗により、3編の英語論文が査読付き学術誌に受領された。うち1編は解剖学的標準脳による「脳地図」を個々の患者の脳に合わせるように変換して、高い再現性で脳損傷の細部を調べる手法の開発である(Koyama & Domen, Prog Rehabil Med 2016 a)。別の2編は、無視症候群(右半球病巣の場合)や失語症(左半球病巣の場合)などの認知的な機能障害と関連の深い脳内神経線維である上縦束の損傷を定量化し、症状との関連を検証したものである(Koyama & Domen, Prog Rehabil Med 2016 b; Koyama & Domen, J Stroke Cerebrovasc Dis In-press)。このように今年度、最終的な目標に向けて方法論として確固とした引用文献の公表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)無視症候群の症状は、症例により一様ではなく、細部が異なる。視野の左半分に注意が向きにくい症例(例:左側から声をかけられても気がつかない)がある一方、動作対象物の左型を見落としてしまう症例(例:食事トレーの左半分を食べ残す)がある。これらの症例を一群として脳画像の統計解析を行うより以前に、症例ごとに脳画像と症状の関連を検討する必要がある。これらの課題を克服するため、今年度、精度の高いMRI脳画像を撮像し、症例ごとに詳細な検証を加える手法を確立した。具体的には拡散テンソル法MRIの解析について、通常なら個々の症例の脳画像を解剖学的標準脳に変換した上で脳損傷の細部の検証を行うところを、その逆方向の変換を行う手法により検証することである。この手法を確立して論文として引用可能なものとするため、脳卒中後遺症として中枢性聴力障害を呈する症例にこの手法を適応し、査読付き学術誌に報告した(Koyama & Domen, Prog Rehabil Med 2016 a)。
(2)無視症候群(半側空間無視を含む)を呈する脳卒中患者は、重篤な左上肢下肢の麻痺を伴うことが多い。これらの患者において、右大脳半球の上縦束線維だけでなく、錐体路線維も大きく損傷されてる場合がほとんどである。そのため、双方の症状を併せ持つ中等症以上の脳梗塞患者40例を対象とした後方視的観察研究を行い、錐体路線維は上下肢の麻痺症状と、上縦束は認知機能障害(右半球病巣例では無視症候群、左半球病巣例では失語症等)と関連が強いことの知見を得た。これらの知見は原著論文にまとめられ、すでに査読付き学術誌に受領されている(Koyama & Domen, J Stroke Cerebrovasc Dis In-press)。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのデータ収集において、上肢下肢の麻痺等を伴わずに無視症状のみ(左半側空間無視を含む)を呈する症例は稀である(年間2例程度)。そこで純粋な無視症状のみを示す症例を集めることと並行して、様々な症状(無視症候群と上下肢の麻痺等)を併せ持つ症例について脳内の損傷部位と症状を評価し、統計的手法によりそれらを分離して評価する方策を併せて実施することとする。
拡散テンソル法MRI撮像について、昨年度までは12軸撮像を行っていたが、より解像度が高いファイバー・トラッキングによる神経線維の描出(トラクトグラフィー)を行う目的にて、今年度より30軸撮像に変更した。予備的な解析の結果、12軸では安定した所見が得られにくかった神経線維の描出(トラクトグラフィー解析)に改善が見られている。純粋な無視症状のみを示す症例について、このように高精度のトラクトグラフィー解析を用いる方策を取る。
純粋な無視症状のみを示す症例のデータ収集と並列して、無視症候群を含む認知機能障害と上肢下肢の麻痺を合併する多くの患者よりデータを収集する。外貌学的標準脳変換等の手法を用い、多くの症例に共通する病巣と症例の関連を検討する。脳の解剖学的構造について、確率分布までを考慮した「脳地図」を応用すること等により、認知的機能障害と上下肢の麻痺等を可及的に分離して評価し、重回帰分析等の統計的解析手法に載せる方策を取る。
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Causes of Carryover |
前述のように、平成28年度は最終的な目標に至る前の方法論の確立に労力を要した。そのために当初予定していた比較的に高額である動作解析装置等に用いる機器類(表面筋電計等)の導入を後回しにしている。確固とした方法論を確立し、より高い精度で研究を行うための方策である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
動作解析装置等に用いる機器類(表面筋電計等)の購入を予定している。
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