2015 Fiscal Year Research-status Report
体育授業での運動不振学生に対する心理的アプローチの構築
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15K12624
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
小谷 克彦 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40598794)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 運動不振 / 内的体験 / 心理的アプローチ / 体育授業 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,本研究課題の下位課題である「運動不振症状の分類」及び「運動不振学生の内的体験の解明」についての検討を行った.まず,「運動不振症状の分類」に関しては,スポーツ場面に焦点を当て,動作,技能,知覚といった3側面の関係から特徴を探った.しかしながら,運動不振を自覚するものは,3側面ともに高い特徴を示し,運動不振症状の特徴を明らかにするまでには至らなかった.そこで,運動不振症状の特徴に迫る新たな観点を探るために,自由記述式質問紙を実施した.その結果,従来の動きに関する要因だけでなく,「周囲との関係性」や「心の不安定さ」といった要因が抽出された.すなわち,運動不振を捉える動きについて,身体的な動きだけでなく,その適用範囲を広げる必要があることが明らかになった.この点については,平成28年度に継続して取り組んで行く. 次に,「運動不振学生の内的体験の解明」に関しては,動きに関する課題を主訴としたカウンセリングのケースからの検討を試みた.その結果,課題となる動きの特徴と風景構成法の特徴との間に関連がみられ,アイデンティティの不安定さが関係していることが示唆された.この点に関してはさらなる検討が必要であり,平成28年度も継続して検討を進める. さらに,海外での運動不振研究の動向を調べるために,海外での情報収集を実施した.運動不振を直接に扱った研究はみられなかったが,運動嫌いをはじめとする問題を呈する児童生徒へのアプローチに関する研究が多くみられた.しかしながら,それらは運動嫌いの児童生徒への動機づけや目標設定などのアプローチが多く,運動嫌いの児童生徒の実際の姿がそれらの研究からイメージできないものが多かった.つまり,運動嫌いなどの問題を呈する児童生徒の体験に関する理解が欠如しており,運動不振を呈する学生の体験に迫ることを目的としている本研究課題の意義を確認することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,「運動不振症状の分類」を行い,その後の下位課題である「運動不振学生の内的体験の解明」に取りかかる予定であった.しかし,運動不振症状の明確化が予想以上に難しく,症状の分類および対象者の選定までは至っていない.その点では進捗状況としては遅れている.しかしながら,運動不振症状を捉える新たな観点を得ることはできた.また,運動不振学生の体験の解明に関しては,運動不振の症状を分類することはできなかったものの,「動き」に関する課題を主訴としたスポーツカウンセリングのケースからアスリートの内的体験を探る試みを行った.そこでは,内的体験として投影法の一つである風景構成法を分析観点とし,アイデンティティに関する特徴を明らかにすることができた.さらに,海外における運動不振および運動嫌いの研究の動向についても情報収集をすることができ,本研究課題の意義及び可能性を改めて確認することができた.以上のことから,本研究課題を取り組む上で,初年度の段階としてはおおむね順調に伸展している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に実施した「運動不振症状の分類」に関して明らかになった課題について検討を行い,スポーツ場面だけでなく体育授業においても活用できる指標の構築を試みる.また,「運動不振学生の内的体験の解明」に関しては,風景構成法だけでなく,アスリートの語りからも分析を行うと同時に,面接対象者を増やし,さらなる検討を進める.その際には,他の研究協力者に助言を求め,分析を精査していく.そして,これらの研究成果を学会および論文化して発表を行う.学会発表に於いては,オーストリアで行われる「European College of Sport Science」で発表を行う予定である.その他にも国内において研究成果を発表する予定である.
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Causes of Carryover |
平成27年度の当初の予定では,質問紙調査を実施し,その分析作業に人件費を使用する予定であった.さらに,面接調査や投影法によるデータを収集し,その内容を研究協力者とともに検討することを予定していた.しかし,実際の取り組みでは,既存データによる再検討や少数の面接調査に留まってしまった.そのために,面接協力者への謝金,さらには面接データによる事例検討会の開催,および助言者への謝金,面接データの分析・助言のための研究協力者への謝金に使用することができなかった.以上の理由のために繰越金が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に繰り越した研究費は,平成27年度に実施できなった取り組みを平成28年度に使用する予定である. なお,平成28年度の研究費の使用計画は以下の通りである.まず,物品に関しては,心理臨床関係の図書及び質的研究関係の図書を購入し,情報収集をはかる.また,研究を実施する上で必要となる心理検査や文具の購入に使用する.旅費に関しては,国内外の学会にて研究成果の発表を行うため,その費用として使用する.海外の学会に関しては,7月に参加・発表する予定である.人件費に関しては,研究協力者から指導助言に対する謝金,そして面接協力者への謝金として使用する予定である.その他に関しては,情報収集及び研究成果発表で参加する学会の参加費,研究成果発表のための英文校閲や論文印刷などの経費として使用する.
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