2015 Fiscal Year Research-status Report
視点変換体験の質的研究に基づく自己意識と他者理解の理論モデル構築
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15K12634
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| Research Institution | Tokai University |
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Principal Investigator |
田中 彰吾 東海大学, 総合教育センター, 教授 (40408018)
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2015-04-01 – 2018-03-31
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| Keywords | 身体性 / 自己意識 / 他者理解 / 間主観性 / 視点変換体験 / 現象学 / 質的研究 / 社会的認知 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「視点変換体験」と題する体験を記述し、その結果にもとづいて自己意識と他者理解の理論モデルを構築することにある。2015年度は、本研究の理論的な出発点となる「身体的間主観性」について総括するとともに、「視点変換体験」の質的研究を進めるための体験プログラムを立案した。具体的な研究実績は以下の通りである。
(1)哲学者メルロ＝ポンティの「間身体性」を社会的認知の基礎理論として定式化した。間身体性は、もらい泣きやつられ笑いのように、自己の身体と他者の身体が、知覚と行為の連鎖を通じて潜在的にひとつの系を成している状態を指す。代表者はこれを心理学的な観点からとらえ直し、非言語的な「相互行為の同期」「行動の同調」という二つのパターンとして整理し、理論モデルとして提示した。成果はTheory & Psychology誌に論文として掲載された。
(2)上記モデルを出発点として、身体性から自己意識と他者理解が成立する発生的起源について考察し、この考察をもとに「視点変換体験」のプログラムを立案した。反省的自己意識の身体的基盤は、自己の身体を対象として知覚する経験にあり、さらにこの経験は、自己の身体が他者によって対象化される経験にその基盤を持つ。以上を踏まえ、ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で、他者の視点からビデオカメラで撮影された自己の身体を見る一連の体験プログラムを立案した。今後、質的研究のためのデータ収集を進める。
(3)以上の理論的考察は、関連研究会でその要旨を報告するとともに、日本心理学会でもシンポジウム（「他者感へのエンボディード・アプローチ」）を企画するなどして、その萌芽的アイデアを発表した。また、本計画の研究方法に関連して、現象学的な質的研究を解説した英文書籍（Darren Langdridge著『Phenomenological Psychology』）の翻訳を進めた。邦訳書が間もなく刊行される予定である。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、「視点変換体験」と題する体験を記述し、その結果にもとづいて自己意識と他者理解の理論モデルを構築することにある。2015年度は3年計画の1年目であり、次の3点を目標として設定した。(1)これまでの理論研究の成果を論文化し、次年度以降の研究の基盤とする。(2)「視点変換体験」の体験プログラムとインタビュー計画を立案する。(3)関連する内容の研究発表および翻訳を進める。
(1)については、成果をまとめた論文が国際誌Theory & Psychologyに掲載された。同論文は、間身体性の概念に基づいて従来の社会的認知のモデルを批判し、非言語行動の同期と同調の観点から新たな理論モデルを提示したものである。また、身体性の観点から日本文化における自己を再考した論文も年度末に出版され、当初の予定をやや上回る成果を挙げることができた。
(2)については、ヘッドマウントディスプレイとビデオカメラを購入し、それらを試験的に用いてさまざまな視点から身体を見る体験を探索した。その過程で、(A)三人称のパースペクティヴから腕を見ると腕の所有感にゆらぎが生じること、(B)前面と背面から自己の上半身を見ると著しい違和感が生じること、(C)視点を変えた状態では特定の身体運動に困難が生じること、を見出した。これらを視点変換体験の具体的プログラムとして立案し、所属先の倫理委員会に研究計画を提出した。現在まで、順調に計画は進展している。
(3)については、本研究に関連して「他者感」という概念を新たに導入し、関連するシンポジウムを日本心理学会で開催するとともに、他の研究会でも講演を行った。また、2015年初頭から現象学的な質的研究の教科書（『Phenomenological Psychology』）の邦訳に2名の研究者と共同して取り組み、すでに翻訳作業を終え、近日中の刊行を予定している。
以上の理由により、「（２）おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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| Strategy for Future Research Activity |
この一年間は、おおむね順調に研究が進捗しており、期間全体（2017年度まで）の計画に変更はない。2016年度は、特に下記の点に注力して研究を進めたい。
(1)すでに立案した「視点変換体験」のプログラムを実施し、研究参加者にインタビューを実施する。実施件数の目標は10件とする。また、インタビューの各トランスクリプトを比較しつつ、体験内容の共通点と相違点に着目して現象学的な分析を進める。分析に当たっては、特に、「身体の所有感」「自己位置の認知」「自己の身体に感じられる違和感」に着目する。これにより、反省的自己意識や、他者視点取得などの身体的基盤を発見しうるとの見通しを立てている。
(2)これまで本研究を進めるなかで、「ラバーハンド錯覚」および「フルボディ錯覚」と呼ばれる体性感覚の錯覚との関連性が新たに明らかになりつつある。とくに、三人称のパースペクティヴから自己の身体を見る体験は、自己位置の空間的な認知について、フルボディ錯覚と体験内容に共通点が見られるように思われる。そこで、フルボディ錯覚に関する各種の研究を調査し、視点変換体験プログラムの拡充を検討する。
(3)今年度は7月末に横浜で国際心理学会議（ICP 2016）が開催される。代表者は、国内外の研究者を招聘し、シンポジウムを開催する予定である。タイトルは「自己を求めて：身体性と相互行為」と題するもので、本研究の内容とも密接に関連する。シンポジウムは、認知神経科学、発達心理学、現象学など、多様な関連分野の研究者が国内外から集う貴重な機会となる。この機会を活用して、本研究の成果を国際的に発信することにしたい。
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| Causes of Carryover |
研究に必要な機材を購入するうえで、残額39272円では不足が生じるため、この残額を繰り越して次年度に機材を購入することにした。
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| Expenditure Plan for Carryover Budget |
質的研究でインタビューを実施し、その音声データを整理、保存するため、小型の情報端末を購入する。
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