2016 Fiscal Year Research-status Report
身体教育の概念とその変遷について:二つの「身体」(生体・媒体)に基づく検討
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15K12635
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中野 浩一 日本大学, 工学部, 准教授 (40579728)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言葉と概念 / 「体育」の概念 / 身体教育 / ペスタロッチ / ヘルバルト / 森有礼 / 兵式体操 / 身体の規律化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、科研費助成事業(研究成果公開促進費)を申請し、これまでの研究成果を著書にまとめ、出版する計画であった。この点は計画通りに助成金の補助を受け、『身体教育研究序説:近代日本の教育学における「体育」の扱い方の変遷とその理由』と題して、体育学関連図書の出版大手である不昧堂から出版することが出来た。また、本研究が韓国の研究者から評価され、韓国の学術団体である"The Association of Japanology in East Asia"の学会誌"Japanese Cultural Studies"に原著論文として掲載された。本学会は語学関連の学者が多いので、「体育」という言葉に関する研究ということで注目されたことと、韓国の近代化には日本の影響が大きいため、韓国の歴史をひもとくには日本の歴史が欠かせないということで、注目されたと思われる。今後も本研究を世界各国に紹介できるように尽力していきたい。 昨年度の課題であった日本のヘルバルト主義における「体育」については、今年度に論文化した。そして、教育史学会へ原著論文として投稿し、現在、審査中である。 学会発表に関しては、資料の分析が済んでいない点があったため、国内の主要な学会では発表することが出来なかった。しかし、今年度の課題の一つであった日本のペスタロッチ主義における「体育」については、「身体教育の概念とその変遷について:研究の進展状況に関する中間報告」と題して、勤務先の大学における学術報告会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、著書の出版に大きな時間がかかった。初めての出版だったため、かなり苦労した。ただし、原著論文を1本、韓国の学会誌に掲載できた点では評価できると思われる。 これらの成果を出したため、次のように、平成28年度の計画に遅れが出てしまった。 本年度の課題の一つであった日本初の「体育」(1876年3月10日発行の『文部省雑誌』)に関する検討は、ベルリン州立図書館で行なった資料の分析が出来なかったため、学会発表をするまでに至らなかった。この点は、ベルリン州立図書館でのさらなる調査が必要なため、今年度には再訪し、研究成果につなげたい。 さらに、本年度の課題の一つは、初代文部大臣、森有礼の述べた「体育」についてであった。日本におけるペスタロッチ主義以降、ドイツの学説であるヘルバルト説が主流となるが、このドイツ化を方向付けた一人が、初代文部大臣の森有礼である。彼の述べる「体育」を検討すると、それまでにない、新たな概念を提示していることが明らかとなる。これを検討するためには、駐米と駐英公使を歴任した森がその公務の中、アメリカ、イギリス、ドイツ、スイス、フランスなどで教育研究を行ったと述べているので、それらの国における資料館や図書館を訪問する予定であったが、本年度は果たせなかった。この研究は今後の科研費の課題につなげられるよう、調査する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘルバルト主義において否定された身体教育がその後、どのように位置づけられていったのかを検討する。ヘルバルト主義以降、日本に紹介された欧米教育学説は、社会的教育説、実験教育説、人格的教育説、新カント主義教育説、デューイ説、文化的教育説、振興教育説、民族的教育説などである。これらの教育説に関しては、これまでにある程度の資料収集はできている。そして、これらの学説を検討した結果、身体教育への言及は認められなかった。この点は、既に学会で発表済みである(中野浩一「教育学が『体育』に言及しなくなる過程、その2:教育関係書雑誌と翻訳本を中心に」、教育史学会第36回大会)。 しかし、二つの「身体」の観点からは分析を行っていないので、新たな観点から再検討を行う。そして、今日に至る経緯とその問題点について検討し、教育史学会で発表する。
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Causes of Carryover |
これまでの研究成果をまとめた著書(単著)を出版したことが、研究計画に及ぼした影響が大きかったと考えられる。初めての著書だったため、大きな時間のロスがあった。このため、当初の計画では、研究指導を受けるための出張費を計上していたが、利用することが出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度に予定していた研究指導を遂行すべく、予算を利用する計画である。これにより、より多くの研究業績を作成できるよう努力したい。
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Research Products
(4 results)