2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12637
|
Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
近藤 良享 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00153734)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 遺伝子ドーピング / エンハンスメント / コミュニタリアニズム / リバタリアニズム / 自己決定権 |
Outline of Annual Research Achievements |
スポーツ界のドーピングは、1968年の冬季・夏季オリンピック大会の禁止以来、すでに半世紀を迎える。多くの防止策が実施されているが、ドーピング問題は解決せず、現在も違反が続いている。ドーピング違反が続く一因は、完全な選手を目指す人間の欲望、個人の自由、自己決定権を認める立場から説明できるし、それらを論拠としたドーピング禁止規程自体の正当・妥当性もゆらいでいる。そこで本研究では「エンハンスメントとしてのドーピング論」として、これまでとは異なる視点からドーピング禁止(規程)について考察することを目的にした。 初年度は国内外の先行研究の収集および研究者ネットワークの確立を課題とした。先行研究として、マイケル・サンデル、林、伊吹訳『完全な人間を目指さなくてもよい理由』、上田・渡部(編)『エンハンスメント論争~身体・精神の増強と先端科学技術』、レオン・カス、倉持訳『治療を超えて~バイオテクノロジーと幸福の追求』、アンジェラ・シュナイダー、テオドーレ・フリードマン共著『Gene Doping in Sport:The Science and Ethics of Genetically Modified Athletes』、ジャン・トーレナーら『Athletic Enhancement, Human Nature and Ethics : Threats and Opportunities of Doping Technologies』の5冊を選定して分析を始めた。最後の文献では、人間性の限界の逸脱、人間性の規範的価値、社会文化・経験科学、実践・政策の視点からドーピング問題が論じられている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の研究計画は研究者ネットワークの確立と国内外の文献収集・分析を開始することであった。 後者の文献収集についてはすでに5冊の国内外の文献を選定した。例えば、マイケル・サンデルの著作(The Case against Perfection)『完全な人間を目指さなくてもよい理由』は「生の被贈与性」というキー概念について考察を進めているし、また2003年の「遺伝子治療を応用する方法の禁止」の論拠となった、2006年の『Gene Doping in Sport:The Science and Ethics of Genetically Modified Athletes』の分析も開始している。この著作の論拠はスポーツの価値をどのように考えるべきかという哲学的考察が展開され、スポーツ哲学の視座としてgenuity、genuiness(真実性、誠実性)に基づくアプローチが行われている。 このように平成27年度に予定した文献収集・分析開始は順調に進められているといえる。ただし、研究者ネットワークについては内外の基本的文献を精読した上で、議論を行うべきとの判断から、まだ構築に向けて動き出してはいない。よって研究遂行は若干の遅れがあると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は初年度であり、年度の前半で文献の収集と選定を行い、後半で国内外の文献の分析を始めた。 今後は初年度に選定した文献の精読する中で、例えば中心文献として、ジャン・トーレナーらの(2013)『Athletic Enhancement, Human Nature and Ethics : Threats and Opportunities of Doping Technologies』に着目してその所論を考察しようと考えている。その理由は、本書が人間性の限界の逸脱、人間性の規範的価値、社会文化・経験科学、実践・政策の視点からドーピング問題が論じられているからである。 時間的な制約もあることから、重要な部分について翻訳業者の協力をも仰いで、エンハンスメントとドーピング問題についての基本構造を明らかにしていく。
|
Causes of Carryover |
研究費全体が計画通りに使途出来なかった理由は、平成27年度に本研究である「挑戦的萌芽研究」と同時に重複申請した科学研究費補助金の「基盤研究B」が採択されたことに起因する。具体的には「基盤研究B」において同じく申請していた海外旅費(ヨーロッパ大学スポーツ科学会議:ECSS)は、「基盤研究B」の海外旅費を使用したからである。また、海外文献の選定及び発注が遅れたことによって著書の入荷が遅れ、重要文献・論文の翻訳依頼ができなったこと、それに連動して資料整理の謝金が執行できなかったことの3点に原因がある。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の平成28年度には、ヨーロッパ大学スポーツ科学会議(ECSS)への予算は、この「挑戦的萌芽研究」に計上されておらず、ECSSへの参加に充当できるし、主要文献の翻訳依頼も次年度当初に始めることができ、それに連動して資料整理の謝金も必要となることから、予算執行上の問題はないと考える。
|