2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15K12637
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
近藤 良享 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00153734)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 遺伝子ドーピング / エンハンスメント / コミュニタリアニズム / リバタリアニズム / 自己決定権 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度(最終年度)は、エンハンスメントとしてのドーピング論をまとめる年度であった。まとめにあたっては、スポーツ界のエンハンスメント、スポーツ界以外のエンハンスメントに分けて考察した。 前者は、最終的に、「スポーツ医科学」は何を目的にして、選手を改善、増強すべきかが問われた。つまり、怪我、病気(予防を含む)のケア、治療を主たる目的である医療を超えて、スポーツ医学は何をめざす領域なのか。一般の人の治療とスポーツ選手との治療とは何が異なり、スポーツ選手であれば、治療の名の下に、結果としての増強も可能なのかが問われた。スポーツ医学の目的論はほとんど議論の俎上にはあがっていない。しかし、最先端科学技術の発展によって、ますます治療とエンハンスメントとの境界が拡大、増幅する。おそらく、2003年に遺伝子治療の応用を禁止したWADA規程は治療レベルでの懸念と選手への人体実験場への危惧があったと推察される。遺伝子治療が安易に導入されていくと、「滑りやすい坂道論」が示すように、スポーツ界への積極的導入も行われる可能性がある。それは、選手自身が遺伝子治療を望み、スポーツ医科学者もそれに興味を抱き、両者の欲望が一致すると、秘密裏に治療ではない、エンハンスメントとしてのドーピングになる可能性が指摘される。選手とスポーツ医科学者の倫理性を担保しないとスポーツ界は崩壊すると結論づけられる。 他方、スポーツ界以外でのエンハンスメントは、人間の欲望をどこまで容認するかが問われる。現代社会においてはアンチエイジング、美容整形・形成、サプリメントなどますます広がりを見せている。人間の限界性を先端科学技術によって超える試みは経済とのリンクにより増加することが予想される。人間にとっての幸福とは何かについて、不断にエンハンスメント論を通じて考察していくことが重要である。
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