2015 Fiscal Year Research-status Report
アスリートのあがりを防止する新しいトレーニング法の開発
Project/Area Number |
15K12657
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
正木 宏明 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (80277798)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | あがり / QEトレーニング / 右半球賦活 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,動作前の目標固視時間を延長させるquiet eye (QE) トレーニングと,左手によるボール把握がもたらす右半球賦活効果(反復把握法)を組み合わせ,アスリートのための新しい「あがり」対処法の確立を目指した.初年度では先ず,右半球賦活効果を最大にする条件(ボール把握力と把握時間)を同定するために脳波計測を行った.ソフトテニスボールを使用し,把握手 (左/右),把握時間 (長/短),把握強度 (強/弱)を操作した8条件を設定した.把握時間は長:90秒または短:30秒の2条件,把握強度はボール内圧が強:100 hPaまたは弱:20 hPaの2条件であった.課題は各条件とも85回/分のリズムで,2 cm程度変位するまでボールを展延することだった.実験の結果,安静条件に比較して,左手による弱く短い把握と左手による強く長い把握ではα帯域のパワ値が右半球で有意に小さくなった(右半球の賦活).右半球賦活効果は反復把握終了後45秒間で認められた.同様の賦活効果は右手把握時にはなかった.本結果から,弱い力量で30秒間程度ボールを把握すれば右半球の賦活効果が高まることがわかった.本結果は第34回日本生理心理学会(2016年5月名古屋大学)で報告する. バスケットボールのフリースロー遂行時に,左手ボール把握が右半球を賦活させることを確認するため,アイトラッカーによる視線動向と脳波を同時記録した.男性大学生を対象としたパイロットスタディでは,QE時間はフリースロー失敗時よりも成功時のほうが長い傾向だった.また右半球の賦活は中心-頭頂領域で失敗時よりも成功時に生じることが示唆された.これらの結果は,SGU第2回国際シンポジウム(2016年3月早稲田大学)で報告した. 現在,大学バスケットボール部員を対象として,フリースロースキルに対する3週間QEトレーニングと反復把握法の相乗効果を検証している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した計画に基づき,ボール把握中の脳波を計測し,右半球賦活が最大となる条件を同定した.結果は研究実績の概要に記載したとおり,本番の重要な動作直前に,左手把握運動を比較的弱い力量で30秒間程度実施すればよいことが示唆された.この結果に基づき,トレーニング実験で用いるボール把握のパラメータを設定できることとなった. QEトレーニングと反復把握法を組み合わせた「あがり」対処法の効果を検証するため,以下の4群間での比較検討を当初計画していた:QE群(QEトレーニングのみ実施),反復把握群(左手によるボール把握のみ実施),QE+反復把握群(両対処法を実施),介入なし群.過去の知見に基づくと,反復把握の効果は試合の重要局面での実施で得られ,反復把握自体をトレーニングする必要は必ずしもない.そのため反復把握群を実験計画から外し,各群に割り当てる実験参加者数を増やすことにした. 各群の参加者数を集めるうえでは,母集団の多い大学体育部の協力が必要となる.現在,バスケットボール部の協力を得て実験を開始したが,主要練習場の大学体育館が改修工事下に置かれ,部活動の練習場所に変更が生じる事態となった.その影響でデータ収集に遅れが生じているが,部の協力をいただき実験は継続できている.また,アーチェリー部所属選手の協力も得て,QE時間とアーチェリーパフォーマンスとの関係を調べることも行っている.反復把握法同様に,QE時間とパフォーマンスとの関連性を確認し,トレーニング実験での課題設定に活かすことが狙いである.最終年度では,できるだけ多くの参加者からデータを取得し,トレーニング実験を完遂する. 上記の経緯から,全体的に概ね順調に研究を実施していると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
大学バスケットボール部とバスケットボールサークルに所属する大学生に実験参加を依頼する.以下の3群に実験参加者を割り振る.1.QE群(QEトレーニングのみ実施),2.QE+反復把握群(両対処法を実施),3.介入なし群.いずれの群も先ずプレテストでパフォーマンスを評価し,約3週間後にポストテストおよびプレッシャーテストを行い,パフォーマンスを再度評価する.QEトレーニングは週当たり3回程度実施する.3週間後のテスト時に,QE+反復把握群のみボール把握を行ったうえでフリースローを行う.バスケットボール部の監督に協力を依頼しながら男女両部員に参加してもらう. 申請書ではハンドボール,フットサルでのトレーニング実施を計画していたが,実験参加者数を十分に確保することが困難になっているため,種目を変更することを検討している.研究代表者の指導する演習に所属する学生の専門種目に応じて,サッカーのペナルティキック等で本トレーニング効果を検証することを計画している. 脳波計測については,実験室外の環境で計測することの困難性を初年度に確認したため,今年度の実験ではアイトラッカーの装着だけ行うこととした.右半球賦活を効率的に生じさせる条件を基礎研究で同定しているので,その知見に基づいたボール把握課題を設定し,実験参加者の負担を軽減する. 得られた成果は早急に発表するように努める.本年度は日本生理心理学会等での成果報告を目指している.また,学会発表だけでなく論文化を急ぎ,可能な限り国際誌での報告を目指す.
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Causes of Carryover |
研究対象の体育部からの参加者が予定通りに集められなかったため,年度を改めて実験を再開することとした.それを受けて,初年度に計上していた実験参加者謝礼金の一部を次年度に計上する必要が生じたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度の参加者謝礼に追加し,予定参加者数を集めてデータ収集を行う.
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