2015 Fiscal Year Research-status Report
手指の筋腱複合体の弾性特性に着目した物体操作運動の解析とスポーツ指導への展開
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15K12663
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Research Institution | Sasebo National College of Technology |
Principal Investigator |
槇田 諭 佐世保工業高等専門学校, 電子制御工学科, 講師 (60580868)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 手指運動 / 筋腱複合体 / 計測 / 超音波画像 / バイオメカニクス / 弾性特性 / バレーボール / 運動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,手指に内在する筋腱複合体(筋と腱の総称)のもつ弾性特性を外部から簡便に計測,推定する手法を提案し,スポーツ動作の定量的評価へ応用することである.本年度は,「手指の筋腱複合体の弾性特性を外部から計測するモデルの生理学的正しさの検証」「筋腱複合体に蓄積される弾性エネルギーに起因する運動速度増大の確認」「プレー動作中の手指関節角度変化と指先発揮力の計測」に取り組み,次の研究成果を得た. 提案モデルとは「外力によって手指を伸展(伸ばす)方向に押し上げる際,指先発揮力が関節角度に応じて増大するモデル」である.指を曲げる筋腱が引っ張られることで復元力が生じることが原因であると予想される.この実験において超音波画像診断装置により伸展時の筋腱の変位量を計測したところ,関節角度に比例して増加することが確認された.したがって,筋腱の弾性特性を外部から観測可能な関節角度と指先発揮力で記述しようとする提案手法は生理学的にも妥当なアプローチであるといえる. 蓄積された弾性エネルギーによって手指の運動速度が増加することも提案モデルから説明でき,手指を伸展させてから一気にリリースさせたときの手指運動について高速度カメラによる撮影から運動速度を推定すると,伸展させた手指の関節角度に指数関数的に比例して関節角速度が増大することが確認された. スポーツ動作中の手腕の動作を分析するためにデータグローブ(手指の曲げ量を計測する)と指先発揮力を計測する力センサを組み合わせて計測環境を整えた.手指の曲げ量と関節角度をキャリブレーションして対応付け,プレー動作の計測結果と先行研究との関連付けを図る. 次年度以降は,より精緻な生理学的解析,スポーツ動作時に予想される動的な手指の弾性特性の推定,バレーボールのオーバーハンドパスを例としたプレー動作の計測・分析に取り組む.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画で目標としていた3項目について,それぞれに成果を得て,今後の研究方針を決定づけることができている.ただし,想定していなかったいくつかの課題が浮上してきたので,その早期解決を目指すとともに,次年度の研究計画を進展させる. 「申請者らの先行研究で提案した,手指の筋腱複合体の弾性特性を外部から簡便に計測可能なモデルの生理学的正しさを検証」することについては「外力によって手指を伸展(伸ばす)方向に押し上げる際,指先発揮力が関節角度に指数関数的に増大するモデル」に対して,超音波画像診断装置により伸展時の筋腱の変位量を計測したところ,関節角度に比例して増加することが確認された.この結果は申請者らの提案モデルの生理学的正しさを補強する材料である. 「筋腱複合体に蓄積される弾性エネルギーによる手指の運動速度の増大を計測,確認」については前述の提案モデルから,筋腱の伸長(MP関節の伸展角度)の増大に応じた弾性エネルギーが筋腱の短縮時に運動エネルギーに変換され,手指を高速に運動させることを仮定した.この検証のために指先を押し上げて一定の伸展角度としたのち,外力を除荷したときの手指の運動を高速度カメラで撮影・画像解析して,その関節角速度を求めた.この結果,提案モデルから導出されるエネルギー変換式によって,伸展角度とそのときの関節角速度の関係を近似できた. 「手腕を使うスポーツ動作中の手指運動の状態(関節運動,指先発揮力)を計測可能なデータグローブを作成」について,既存のデータグローブは手指のMP関節角度を直接に計測できないので,関節の伸展角度とデータグローブの出力値とをキャリブレーションして換算できるようにした.分散は小さくないもののおおよそ線形近似可能であるので計測しやすい.指先発揮力については当初予定した3軸力センサが本実験には適さなかったので,1軸の薄型圧力センサを採用する方針である.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に残された課題を早期に解決しつつ,次年度に設定した3つの研究計画を進展させる. 前年度の課題として,データグローブによる手指の曲げ量と指先発揮力の計測を同時に計測できるアプリケーションが未完成である.それぞれのデバイスの開発ツールを統合し,時刻同期の取れた実験データを収集・分析する. 「手指が運動する際の筋腱複合体の短縮過程を観察」について,前年度に実施した超音波画像解析を踏まえて,筋腱の伸長―短縮過程における張力(指先発揮力)のヒステリシスの原因解明に取り組む.短縮過程における筋の変位量を調べ,伸長時の変位量との差異が確認できれば,筋力発揮メカニズムから説明できる可能性がある.特に前年度の成果だけでは筋腱全体の「伸長量」を計測していないので,外力によって筋腱が伸長したのか単に変位しただけなのかを厳密に判定することは困難であった.多点計測を実施することで,より正確な評価ができると考える. 「伸長反射を伴う手指の伸展運動が起こる場合の,手指の弾性特性の変化の計測,解析」は筋腱の動的粘弾性を推定することに相当する.したがって,一定周波数でMP関節角を変化させるなどして,先行研究で得られた静的弾性特性の結果と比較する.一般に伸長反射が起こればそれに応答して筋張力が変化するので,結果として指先発揮力にも差異が確認されるものと予想する. 「スポーツ動作中に手指が操作対象物に衝突する際の,手指の運動速度と対象物が得る速度との関係を計測,解析」ではバレーボールのオーバーハンドパスを例として,実際のプレー実行時の手指の関節角度変化と指先発揮力を計測する.手指がボールに対して与える仕事を推定し,ボールの軌道との関係を提案する力学モデルから説明する.
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Causes of Carryover |
当初予定していた国際会議参加旅費について,日本国内の開催であったため当初よりも旅費の支出を抑えることができた.また当該年度に実施した実験においては研究関係者のみによる基礎実験の実施にとどまったため,外部の被験者要請等にかかる謝金等についても残額が発生している.なお,実験の実施において連携研究者を招聘したが,他の財源を確保できたためにこれも抑えられている.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度の基礎実験を踏まえて多くの被験者を確保した計測実験を実施し,データの収集に努める.連携研究者を研究分担者に引き上げて予算配分をするので,効率が上がると期待する.また実験実施のために前年度よりも消耗品費と謝金の支出が多くなると予想する.また,国内会議での成果発表が決定しているので,その参加旅費・登録費とし,広く意見を聴取する.加えて,今年度の研究成果を早期に国際会議や論文誌へ投稿し,その登録・掲載費にあてる.
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Remarks |
(1)研究者による関連研究内容の解説 (2)掲載した研究報告の PDF
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Research Products
(5 results)