2016 Fiscal Year Research-status Report
多核細胞である骨格筋が筋線維タイプ変化を生じる機構の解明
Project/Area Number |
15K12665
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
狩野 豊 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (90293133)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 多核細胞 / 細胞内輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
トレーニングによって形態や機能が変化する可塑性に富んだ骨格筋線維は,他の細胞と異なり複数の細胞核が配置している「多核細胞」である.この特徴は,骨格筋適応のメカニズムを解明する上での重要なポイントである.本研究は,同一の筋線維内のそれぞれの筋核において,細胞質内環境の変化に対する情報の共有化メカニズムの有無について明らかにすることを目的とした. そのための研究モデルとして,速筋線維に遅筋化を誘導する因子(AMP,PGC1α etc.)を局所的に発現させることで遅筋線維への筋線維タイプ変化を生じさせ,速筋と遅筋が同一の筋線維内で発現する「ハイブリッド筋線維」の作成を目標とした.現在までのところ,筋線維タイプの形質発現に影響する因子を導入するための実験モデルの作成に取り組んでいる. 実験系の構築のために,本研究では細胞内グルコースに着目した.グルコースは解糖系のエネルギー基質として重要な物質であるが,これまで,細胞外から細胞内への取込機構を中心に研究が進められ,特定の糖取り込み膜輸送体タンパク質が明らかにされている.その一方,筋細胞内のグルコース拡散・輸送に着目した研究は少なく,その機構は明らかにされていない.そこで,本研究はin vivo条件下において蛍光グルコース誘導体 (2-NBDG) をマイクロインジェクションにて筋細胞へ注入し,グリコーゲンレベルが変動する運動前後において,グルコース拡散性を調べた.その結果,筋細胞内におけるグルコースは,比較対象とした複数の蛍光色素よりも拡散性が高い可能性が示された.この結果は,細胞活動に必須の物質を筋線維内で共有するための輸送システムの存在を示唆するものであり,筋線維の形質を維持するための手がかりとなる結果を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,多核細胞である骨格筋細胞が,1本の筋線維において均一な形質発現を支える機構についての手がかりを探ることを目的としている. この研究課題に対して,逆説的に,遅筋と速筋を同時に発現する骨格筋の作成を試みることを目標にして研究をスタートさせた.このようなハイブリッド線維(同一の筋線維で速筋と遅筋が混在する)が可能であれば,多核細胞の骨格筋が均一の形質を保持する機構において,筋線維全体の形質発現の調節を司るようなシステムは否定されることになる. 現在までのところ,筋線維タイプの形質発現に影響する因子を導入するための実験モデルの作成に取り組んでいる.麻酔下のラットにおいて,脊柱僧帽筋を部分的に露出してin vivo環境下の単一骨格筋線維を顕微鏡下に設置した.この条件下において,マイクロインジェクション法により細胞内に対して物質を直接的に導入するモデルを確立した. 次に,このモデルの有用性を確認するために細胞内へ蛍光グルコースを注入し,その動態観察を行った.マイクロインジェクション法により2種類の蛍光グルコース誘導体(2-NBDG,2-NBDLG:鏡像異性体)または蛍光色素FITCを筋細胞へ注入した後,それぞれ20分間観察した.その結果,2-NBDGはFITCおよび2-NBDLGと比較して拡散距離が有意に延長した.これらの結果は,筋細胞内におけるグルコースには能動的な輸送(拡散)機構が関与している可能性を示唆するものである. 現在まで,エネルギー代謝の主要な物質であるグルコースの細胞内動態を明らかにする研究モデルの確立とその動態解析を終了している.しかしながら,当初の目的であるハイブリッド線維の存在を検討できるようなモデルを確立するまでには至っていない.
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Strategy for Future Research Activity |
細胞内でのグルコースを共有する機構の存在を確認しているが,今後は,グルコース以外の物質にも着目する必要がある.例えば,筋線維タイプの変化を誘導するような物質を筋線維に直接注入し,経時的に調べることが考えられる. さらに,MHCI型線維をコードする遺伝子に蛍光タンパクであるYFPを付加したマウスの導入も視野に入れて,筋線維タイプin vivoバイオイメージング観察法を確立したい.これらの実験系を構築し,多核細胞である骨格筋細胞が,1本の筋線維において均一な形質発現を支える機構についての手がかりを得たいと考えている.
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Causes of Carryover |
本研究課題は,同一の筋線維内の筋核において,情報の共有化メカニズムの有無について明らかにすることであった.研究モデルとして,速筋線維に遅筋化を誘導する因子を局所的に発現させることで遅筋線維への筋線維タイプ変化を生じさせ,速筋と遅筋が同一の筋線維内で発現する「ハイブリッド筋線維」を作成することを試みている.生体内での観察方法の確立に時間を要しているが,新しい観察法が確立しつつあるため,研究期間の延長を申請し,その結果,研究費の使用計画が変更となった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は最終年度であるため,グルコース以外の物質にも着目する必要がある.例えば,筋線維タイプの変化を誘導するような物質を筋線維に直接注入し,経時的に調べることを予定している.予算は,その実験の試薬購入に充当する予定である.
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Research Products
(2 results)