2015 Fiscal Year Research-status Report
脂質代謝動態と腸内細菌叢に着目した肥満誘導性肝癌発症に及ぼす運動の効果とその機構
Project/Area Number |
15K12709
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
大谷 直子 東京理科大学, 理工学部, 教授 (50275195)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 肥満 / がん予防 / 運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満は糖尿病や心筋梗塞のリスクを高めるだけでなく、肝臓がん、大腸がんなど様々ながんの発症率を高めることが疫学的に明らかになっている。しかしその分子メカニズムは十分には解明されていない。申請者らは最近、全身性の発がんマウスモデルを用いて、肥満が肝がんを著しく促進させることを見出した。そしてそのメカニズムとして、肥満により増加した腸内細菌が産生するデオキシコール酸量が増加し、それが腸肝循環を介して肝臓に到達し、肝星細胞が腫瘍促進性のあるがん微小環境を作ることが原因のひとつであることを明らかにした。次なる課題は肥満誘導性肝がんの予防法開発である。本研究では申請者らの知見を踏まえ、適度な運動がもたらす効果に着目した。実際に申請者らの実験系で、肥満誘導性肝がんを発症するマウスに適度な運動を負荷すると、がんの成長が抑制されることがわかった。適度な運動負荷は全身の代謝動態を変化させ、脂肪からのエネルギー産生を促し、体内の脂肪蓄積を減少させまた、肥満個体で認められる慢性炎症状態を改善することが知られている。運動はがんの予防にも有効であるとの調査も散見されるが、これらを説明できる分子メカニズムはいまだ十分には明らかになっていない。そこで本研究では、適度な運動によって、①肝臓・骨格筋を中心とした生体内の遺伝子発現、②脂質や胆汁酸を含む生体内代謝物動態、③腸内細菌プロファイル、④肝がん周囲の微小環境、等にどのような変化をもたらすのか検討し、肥満誘導性肝がん発症に対する運動効果の分子メカニズムを明らかにし、その予防法の開発に繋げることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
肝癌誘発実験の手法:生後5日目のマウスの背中にDMBAを塗布し、その時点から普通食または高脂肪食(離乳前は母マウスに高脂肪食)を与え続け35週齢時に解析する。この手法で30週齢以降の高脂肪食摂取マウスには、ほぼ100%のマウスに脂肪肝肝炎にともなう肝がんが発生する。一方普通食摂取マウスには少なくとも35週齢時点では肝がんは発症しないことを確認している。 運動負荷の方法:運動負荷は、20週齢から毎日20分間、トレッドミルにて運動を負荷する。運動の程度はマウスを実際に走らせ、乳酸閾値を超えない程度で15週間持続できるスピード(18m/min程度)で運動させる。
結果1.定期的な運動が脂質の蓄積に及ぼす影響の検討:本実験系で発症する肝がんは肥満マウスにおいて脂肪肝を素地として発症することがわかっている。そこでまず、今回負荷する運動が脂肪肝形成にどれほど影響するのか検討した。肝臓の凍結切片を用いて、オイルレッドO染色を行ったところ、非運動負荷マウスに比べて運動負荷マウスでは脂質の蓄積量が50%以下に減少していた。この結果から、肥満マウスに対する適度な運動負荷は脂肪肝を顕著に改善させることが明らかになった。今後、脂質メタボローム解析等を行い、どのような種類の脂質が変化しているのか検討する予定である。 結果2.定期的な運動が肥満誘発肝癌形成において影響を及ぼす腸内細菌叢の同定:16SrRNA遺伝子配列による腸内細菌叢分類解析により、定期的な運動が肥満誘発肝癌形成における腸内細菌叢にどのような影響を与えるのか調べた。その結果、肥満で増加するグラム陽性菌の割合が運動により、有意に減少していた。今後、どのような菌種が変化しているのか、より詳細に菌叢を検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.定期的な運動が脂質の種類の変化に及ぼす影響を検討する 非運動負荷マウスに比べて運動負荷マウスでは脂質の蓄積量が50%以下に減少していた。この結果から、肥満マウスに対する適度な運動負荷は脂肪肝を顕著に改善させることが明らかになった。今後、脂質メタボローム解析等を行い、どのような種類の脂質が変化しているのか検討する予定である。 2.定期的な運動が肥満誘発肝癌形成において影響を及ぼす腸内細菌の菌種を同定する 通常肥満で増加するグラム陽性菌の割合が、運動により有意に減少していた。今後、どのような菌種が変化しているのか、より詳細に菌叢を解析していく予定である。 3.定期的な運動が肥満誘発肝癌の微小環境に与える影響や、肝癌形成において影響を及ぼす代謝経路を同定する メタボローム解析、脂質メタボローム解析で得られた結果から、定期的な運動が肥満により誘発される肝癌形成において、どのような代謝経路に影響を与えるのか、その経路を同定する。またそれらの結果から、運動で変化し、肝癌形成に重要な働きをすると予想される代謝産物やその産生経路の酵素等が明らかになれば、その経路をブロックするようなノックアウトマウスを使って同様の実験をし、その経路の重要性を明らかにする。また肝癌微小環境に及ぼす影響を検討する。
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Research Products
(6 results)