2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12744
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村上 一馬 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80571281)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / アミロイドβ / オリゴマー / 標的探索 / MS/MS / siRNA / ビオチン化 / 磁性ビーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病(AD)の原因物質である42残基のアミロイドβタンパク質(Aβ42)は,凝集することによって神経細胞毒性を示す.最近,神経細胞外に蓄積するAβ42フィブリル(100量体以上)よりも,神経細胞内で会合するAβ42オリゴマー(2 ~ 24量体:2あるいは3量体が構成単位)によってもたらされる酸化ストレスのAD病態への関与が指摘されている.しかしながら,細胞内におけるAβ42オリゴマーの作用機序および標的分子は不明のままである.これまで本研究代表者らは,Aβ42が22,23番目でターン構造をもつ毒性コンホマーを形成することによって,細胞内でオリゴマー化しやすくなっていることを示唆するデータを得ている.本研究では,Aβ42の毒性オリゴマーの細胞内における標的タンパク質を同定することにより,毒性オリゴマーの病態機序を分子レベルで解明することを目的としている. 今年度は,Aβ42の2量体モデルのビオチン化プローブを合成した.毒性コンホマーを形成しやすいE22P変異型に着目し,オリゴマー化に重要なC末端領域のVal40で架橋するとともに,N末端(Asp1)をビオチン標識した.架橋には,2価性のアミノ酸であるL,L-ジアミノピメリン酸を用いた.ビオチン化によるE22P-Aβ42の2量体のオリゴマー形成能への影響をゲルろ過法によって,神経細胞毒性への影響をSH-SY5Y細胞を用いたMTT試験によってそれぞれ調べた.その結果,ビオチン化の影響はほとんどなく,本プローブは比較的安定なオリゴマー(6 ~ 8量体)を形成することが判明した.続いて,本プローブとSH-SY5Y細胞の細胞質抽出液とを反応させた後,アビジン修飾磁性ビーズを用いて,結合タンパク質のMS/MS解析を行ったところ,この2量体モデルに特異的に結合する3種のタンパク質が認められた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では当初,Aβ42の毒性コンホマーを形成しやすいE22P-Aβ42モノマーのN末端をビオチン化し,細胞抽出液を用いて標的探索を行った.しかしながら,E22P-Aβ42モノマーはオリゴマーだけでなく,フィブリル化しやすいことから,様々な大きさの会合体に対する結合バンドがウェスタンブロットで検出された.このため,モノマーを用いる方法では毒性オリゴマー特異的な結合タンパク質の同定は困難であると考えた.そこで,近年,所属研究室において関連する研究課題[基盤研究(S)「アミロイドβの毒性配座理論を基盤としたアルツハイマー病の新しい予防戦略」:入江一浩代表]で確立されたL,L-ジアミノピメリン酸を分子リンカーとした架橋法(Murakami, K. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2015, 466, 463-467)を用いることにより,E22P-Aβ42の2量体モデルをビオチン標識し,毒性オリゴマープローブとした.その結果,「研究実績の概要」に記載の通り,3種の標的候補タンパク質を同定できた.これまでAβ42結合タンパク質の探索事例はいくつかあったが,いずれも探索に用いたAβ42凝集体の分子量を制御できていないものがほとんどであった.今回開発したE22P-Aβ42の2量体モデルは,数日間安定なオリゴマー(6 ~ 8量体)として存在することから,これまでの問題点を解決しうるものと期待される. 当初の計画では初年度は,標的分子のウェスタンブロット解析までを予定していたが,MS/MS解析による候補タンパク質の絞り込みまで行うことができた.以上により,本研究は当初の計画以上に進展しているものと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
同定した3種の標的候補タンパク質について,siRNAをそれぞれ合成し,標的タンパク質の発現量をノックダウンしたSH-SY5Y細胞を作製する.得られた細胞を用いて,E22P-Aβ42の2量体モデルの神経細胞毒性をMTT試験によって評価することにより,Aβ42オリゴマーの毒性発現における標的分子の役割を検証する.またAβ42の毒性コンホマー形成にはAβ42のラジカル化が不可欠であることから,蛍光色素(DCF)法を用いた酸化ストレス評価試験も併せて行う.さらに,毒性発現との関連性が認められたタンパク質については,リコンビナントタンパク質を用いてE22P-Aβ42の2量体モデルとの結合能を,表面プラズモン共鳴(SPR)実験によって,結合部位については15Nで全標識したE22P-Aβ42の2量体を用いて1H-15N HSQC NMR測定することにより,それぞれ明らかにする.なおNMR測定は,医薬基盤研究所(大阪府茨木市)所有の800 MHz装置(Bruker社製,AVANCE II)の共同利用により行う.
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Remarks |
アウトリーチ活動 1. 村上一馬:認知症の食品予防に関する化学的研究.京都大学オープンキャンパス2015,京都大学農学部総合館(京都市)平成27年8月7日. 2. 入江一浩,村上一馬:アミロイドβの分子模型とその毒性立体構造を認識する抗体模型.研究を伝えるデザイン,京都大学総合博物館(京都市)平成27年10月7日~11月8日.
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Research Products
(1 results)