2016 Fiscal Year Research-status Report
自由行動下の脳内遺伝子転写エピソード測定解析:ウルトラディアンリズムの生理的意義
Project/Area Number |
15K12763
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
本間 さと 北海道大学, 脳科学研究教育センター, 招へい教員 (20142713)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
織田 善晃 北海道大学, 医学研究科, 博士研究員 (20735542) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生体リズム / 転写調節 / 発光イメージング / インビボ計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
自由行動下のマウス脳からの遺伝子発現、神経活動などを自発行動リズムと同時に計測し、脳内の様々な振動メカニズムを明らかにすることを目指し、概日周期と未だその発振部位や生理機能が不明なウルトラディアン周期の相関について検討した。概日中枢の局在する視床下部視交叉上核(SCN)にプラスチック製光ファイバーを挿入したPer1-lucおよびBmal1-ELucの2種の発光レポーターマウスを用い、遺伝子発現と行動リズムパラメーターを検討した。神経活動は、マウス頭部に固定可能な電圧増幅回路と測定電極を組み合わせた測定装置(重量1g)を作成し、微細電気活動の連続計測を可能とした。 本年度は光同調における機能を検討するため、9時間の光パルスを照射し、前後の遺伝子発現リズムと行動リズムを詳細に解析した。その結果、主観的暗期前半の光で、Per1-lucは活動開始位相と一致して、パルス翌日には変位を完了していたが、Bmal1-ELucは活動終了位相と一致して、数日の移行期を経て変位した。位相後退に伴う活動期の短縮について、1976年より想定されていた2振動体の分子メカニズムが初めて明らかとなった。一方、ウルトラディアンリズムについては、SCN外の発振、光同調に関与しないことなどが示唆された。 分子メカニズムを詳細に検討するため、Per1, Bmal1の2遺伝子のレポーターマウスを作製し、SCNスライスにカルシウムセンサーGCaMP6sを導入してマルチ電極ディッシュ上で培養し、2時計遺伝子発現と細胞内Ca、自発発火の4機能を同一SCNから連続17日以上測定した。その結果、2遺伝子のフリーラン周期が異なること、Caと自発発火頻度のリズムの周期は一致し、両遺伝子リズムの中間値を示すことが分かった。一方、明瞭なウルトラディアン周期が特にSCN外でみられ、SCN外の発振が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Per1とBmal1というリズム位相が逆転している主要な2時計遺伝子発現を数10日に渡り計測することにより、両遺伝子リズムが乖離することを発見し、同一分子ループを形成し、細胞内で唯一の概日振動発振の分子メカニズムと考えられてきた転写翻訳ループの促進系と抑制系の2遺伝子が、独自のリズムを示すこと、さらに、それぞれが異なる生理機能を制御することを発見した。これまでの常識を覆す新発見により、リズムのシフト、季節変化への行動リズムの同調などの分子メカニズムを明らかすることができた。また、ウルトラディアンリズムの発振源が視交叉上核外であることを示し、ウルトラディアンリズムが概日振動に支配されるものの、光同調には関与しないことも示すことができた。また、これらの成果を研究期間内にPNAS誌に発表することができた点は、予想を超える成果であった。一方、電気活動計測については、マルチユニット計測系を構築し、微小な神経活動を正確に計測可能なマウス頭部固定の重量1gの小型装置開発に成功したが、ソフトウェアの開発に遅れが生じた。コンピュータ上で常時観察可能な高時間分解能のオシロスコープ機能とマルチユニット活動を計測する機能を備えさせると、データ量が膨大となり、長期記録のためにPCのパワーアップが必要となり、実験に遅れが生じた。以上、予測以上の成果を上げた点と、予定した成果を得るのにあと一歩の点があるため、おおむね順調な結果と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子発現の発光レポーターによる計測は、実用化の域に達し、これに、蛍光によるカルシウムレベルの測定を追加するシステムも順調に進んでいる。電気活動の同時計測におけるデータ処理能力の問題点については、一定期間の積算値のみを出力するように設計することで実験目的に沿った解決が可能である見通しがついた。これらを組み合わせ、遺伝子発現、電気活動を自由行動下で測定する装置が間もなく完成できる。ウルトラディアンリズムについては、薬理学的操作により、発振メカニズムに迫る。
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Causes of Carryover |
この研究の成果発表を6月フフホト市(中国)で開催予定の第2回生物リズムアジアフォーラムのシンポジウムで発表予定であり、旅費の支出30万円を予定している。その他の項目として、PNASへ投稿中の論文が平成29年3月28日に受領されたが、印刷代29万円の支払いが平成29年度となる。電気活動計測のためのプログラム開発に10万円、発光レポーターマウス飼育経費4か月分(107,621円)と4か月の動物飼育室賃貸料(65,000円x4か月=260,000円)の支出を予定している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年4~7月、動物飼育経費と動物実験室賃貸料の支払い(367,621円)。平成29年5月、論文掲載料およびカラー印刷代金の支払い(290,000円)およびプログラム開発(100,000円)。平成29年6月、Asian Forum on Chronobiology(フフホト市)参加旅費(300,000円)の支払いを予定している。
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Research Products
(13 results)