2015 Fiscal Year Research-status Report
現代チュニジアにおけるマルーフとシャルキーの共存とその学識
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15K12824
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
松田 嘉子 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (80407832)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アラブ音楽 / チュニジア音楽 / マカーム / マルーフ / シャルキー / ウード |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、現代チュニジアにおけるマルーフとシャルキーの共存の実態や音楽家の教養について調査し、さらにジャスミン革命後のチュニジア芸術文化の変化や現状をとらえるため、チュニジア文化省、ラシディーヤ伝統音楽研究所、国立コンセルヴァトワール等と情報交換を行いながら研究を進めた。 平成28年3月チュニジア文化省主催の新音楽祭「バルドー博物館の夜」に日本を代表するウード奏者として招聘された際、チュニスとシディブサイドで現地調査を行い、国立バルドー博物館や地中海アラブ音楽センターで資料調査および聞き取り調査を行った。「バルドー博物館の夜」第1回音楽祭はチュニジアが対テロ不退転の決意を世界に表明する重要なイベントであり、他の参加国はチュニジア、エジプト、アルジェリア、モーリタニア、ロシア、ポーランドであった。各国の出演者、文化省遺産活用推進局(AMVPPC)と情報交換して、チュニジア音楽の現状や方向性を考察した。文化省は新大臣ソニア・ムバラクのもとに、ブックフェア、楽器フェアなど国際的な文化政策を推進し、マルーフと共通のルーツを持つ北アフリカ諸国との比較研究を進め、またエジプトやトルコ等オリエンタル諸国とも文化交流を深めている。すなわちマルーフとシャルキー両方の音楽伝統に関して保存継承と発展に努める姿勢を見ることができたのは大きな収穫であった。 ラシディーヤ伝統音楽研究所は「80周年、ヌーバ、情熱と芸術」音楽祭を立ち上げ、革命後発足した新楽団が軌道に乗ってきた。その出演者やプログラムの内容からマルーフとシャルキーの共存の様相が考察できた。その成果を論文「チュニジア<ラシディーヤ>伝統音楽研究所~歴史と現在~」として執筆し、共著『中東世界の音楽文化』(平成28年7月出版予定)に収めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度チュニジアではイスラム過激派組織による衝撃的なテロ事件が続いたため、現地への渡航は控えていたが、これまでに収集した資料の整理や分析を行いながら、アンダルス音楽、オリエンタル音楽の音楽理論に関する研究を掘り下げた。その成果を作品に反映し、平成28年に入ってマカーム・フザムにより2器楽曲(「タハミーラ・スィカ」および「サマイ・フザム」)を作曲。平成28年3月チュニジア文化省招聘による国立バルドー博物館と地中海アラブ音楽センターにおける公演で初演し好評を博した。 チュニス国立コンセルヴァトワールのハリッド・ベッサ教授とはインターネットを通じて常に情報交換をしているが、平成28年3月渡航の際はマカームの比較や教育方法を聞き取り調査し、またウード演奏録音を行って音源資料に付加した。 その他図書資料、映像資料、チュニジアやそれ以外のアラブ音楽圏の音楽家たちとの不断の交流を通じて、マルーフとシャルキーの学識・楽理の研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
チュニジアへの渡航は時期とセキュリティに相変わらず注意を要するので、ラシディーヤ地方支部や私立コンセルヴァトワールへの調査出張は、当面容易ではないかもしれないが、ハリッド・ベッサ教授を始めとするチュニス国立コンセルヴァトワール、チュニス国立高等音楽院の教授たちに指針を仰ぎ、マルーフとシャルキーの在り方や教育方法の調査を続行する。チュニジア文化省および地中海アラブ音楽センターと研究協力し、情報交換を進める。音楽家たちの学識や教養については、個別に聞き取り調査を行い、インターネットも含め多様な方法で研究を推進する。 シャルキーに関し、エジプトやトルコのウードの名手による古典的な即興演奏の録音をマカームごとに分析する。
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Causes of Carryover |
次年度に使用する研究費が生じた理由は、平成27年度分をおおむね順調に使用した結果多少の残額が生じたことと、平成28年3月後半にチュニジアへの調査出張を行ったので、航空運賃等が平成28年度へ計上されたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度残額と次年度の研究費は、平成28年3月のチュニジア出張旅費の精算及び平成28年度の調査旅費(チュニジアあるいはアラブ音楽関連領域)、機器備品やソフトウェア、図書音源資料の購入に使用する予定である。
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