2015 Fiscal Year Research-status Report
概念形成過程の分類と法則性および諸言語への汎用性の研究
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15K12840
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岩井 茂樹 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 准教授 (60647080)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 美的概念 / 日本的なるもの / わび / さび / 幽玄 / かわいい / 日本美 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「美的概念」、とりわけ「日本的美的概念」とよばれる概念形成の特徴と歴史的変化の様相を明らかにすることを目的としている。本年度は「わび」「さび」「幽玄」「かわいい」「雅び」「あはれ」「数寄」「粋」「萌え」「洒落」といった美的概念に関する日本語で書かれた基本主要文献の蒐集をほぼ終了した。またこれらの美的概念で表される対象が時代とともにどのように変化してきたのかを調査した。 次年度はこれらの美的概念に関する外国語文献を留学生や本学外国学部教員の協力を得ながら蒐集する。同時に本年度蒐集した資料の分析と美的概念形成に関する規則性や法則性についての考察を行う。 現在蒐集した資料から見えてきたことは、こうした美的概念の多くが本来人の心情を表すものであったり、他者を評価、形容する言葉だったことである。つまり、本来は人に対してのみ用いる言葉だったものが、次第にその人が有する物や、さらにはその物が有する特徴を形容する言葉となっていったことがうかがえるのである。もちろん「萌え」などこの法則性が適用できないような概念もあるが、多くの「日本的美的概念」といわれるものが、それぞれ時代差はあるものの同じような経緯をたどっているらしいことが次第に明らかになってきたのである。 本年度は先述したように、外国語での文献蒐集と研究事情を明らかにするとともに、それらを総合して研究成果として発表したいと考えている。こうして作業を通して、それぞれの「美的概念」の形成過程が明らかになるだけではなく、その概念が適用される範囲の時代的変化が明らかになり、さらには範囲の拡大した理由など時代的背景や要因がより明確になるだろう。 本研究で取り上げている「美的概念」はいずれも海外からの注目度が高いため、研究内容もさることながら、研究成果を多言語で公表することによって本研究の学術的意義と寄与はがいっそう増すだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体的に当初計画していた通り、ほぼ順調に進んでいる。とりわけ日本語文献の蒐集に関しては予想以上に早くに作業が終了し、日本語で公刊された文献はほぼすべて入手することができた。作業が予想以上に早く終了した分、そこで生まれた時間を資料の分析と考察に時間を割くことができた。その結果、日本語文献における先行研究と、独自の調査において「日本的美的概念」とよばれる諸概念の形成過程にある一定の法則性や規則性を見出すことができた。それは「研究実績」の欄でも書いたように、元来諸概念の多くが人を対象としたものであったこと、それが次第に人の所有する物や、その物が有する属性を形容する言葉へと該当範囲を広げていったこと、などである。こうした法則性と規則性を有することはほぼ確実であろうという確証的な見通しを本年度得ることができた。 またこれは本研究過程において本研究とは直接関係はないが、本研究の副産物とも副次物ともいえるような研究成果(論文)を二点発表することができた。一点は日本美術における「視線」に関するもの、もう一点はマンガに関する論文であるが、これらは美的概念の資料を分析する過程で多くの日本画やマンガなど広い範囲の資料に触れる機会に恵まれたことによって生まれた論文である。こうした成果が得られるとは当初まったく予想していなかったが、こうした副次的な成果が生まれることは学術的に非常に意味のあることではないだろうか。ちなみに、これらの成果はすでに論文として発表しているが、本研究と密接に関係するものではなかったため、謝辞を記さなかったことを断っておく。 ただ、現時点では本研究に関する成果、つまり先に述べたような「美的概念」の形成過程に関する法則性や規則性に関する研究成果などは未発表であるので、次年度以降、本研究の成果発表と公開を積極的に行っていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降、他言語の文献等の蒐集と、複数の言語での研究成果公開を行う予定である。具体的には、まず第一段階として、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語など日本研究が盛んであったり、日本文化に高い関心のある国や地域においてどの程度、こうした美的概念に関する研究や資料があるのかを調査したい。そして第二段階として、他の地域に調査範囲を広げるのかどうかを判断したい。つまり、先にあげた言語での調査をまずは確実に行い、その結果によって次に行うべき作業を明確化したいと思う。 言うまでもなくこうした作業には、より多くの留学生や研究者、翻訳者などの協力が必要となる。したがって、これまで以上に、人的ネットワークを広げること、国際学会などで成果発表を行うこと、国籍や職種を問わず多くの人たちに研究意義を理解してもらうことが求められる。 現時点では、どの程度、本研究に対する協力と理解が得られるかは未知数であるが、上記のような必須事項を具体的な行動に移し、継続的に行うことでしか、多くの支持と協力は得られないことは明らかである。したがって、本研究および研究成果をできるだけ多くの人に知ってもらう努力が不可欠となる。実際に行動し、認知度を上げ、理解と協力を得る、という作業を継続的に行いたい。 本年度は作業内容の性格上、研究室内での作業が中心であったが、次年度より研究室での研究だけではなく、研究室外での活動や協働作業も積極的に行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
基本的には本年度蒐集した諸概念に相当する外国語文献の実態調査とその蒐集費用に使用する予定である。資料の購入や送料、複写代などが主要な支出内容となる。まずは英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語など日本研究が盛んであったり、日本文化に高い関心をもつ国や地域で使用されている言語で書かれた文献の調査と蒐集を行う。 もし蒐集の過程や結果で翻訳者などを雇用したり、翻訳を依頼する必要が生じた場合は、翻訳に関わる費用として充当する可能性がある。ただし、翻訳費用などの費目に関しては、資料の蒐集状態によっては最終年度の費用を充当するかもしれない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
何語においても日本の美的概念に関する資料では、分析対象となる語が資料中に最低一回はローマ字、漢字、平仮名、カタカナのいずれかで記されるはずである。したがってまずは対象とする概念をローマ字をキーワードとして資料検索を行い、その内容が本研究の分析対象に値するかどうかを判断し、必要と判断した場合には可能な限り入手したい。もし入手が困難な場合は、資料のタイトルをリスト化するなどの処置をとりたいと考えている。 ただし、その過程で翻訳作業などが必要になった場合には翻訳者を雇用したり、依頼したりする必要性が生じるかもしれないので、そうした場合は翻訳者への謝金などに使用する可能性もある。雇用、依頼の判断は外国語文献の量と内容によるので、作業を進めながら随時判断したいと考えている。
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Research Products
(3 results)