2015 Fiscal Year Research-status Report
リミテッドな視覚情報をトリガーとする新しいメディアデザイン手法の研究
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15K12844
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
菅 俊一 多摩美術大学, 美術学部, 講師 (30740716)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | メディアデザイン / 映像表現 / 表現方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度である27年度は、研究目的として掲げた「静的な情報提示によって、そこには含まれていない動きや質感を鑑賞者の頭の中に作り出す」新しいメディアデザイン技法を開発する初段階として、これまで研究者自身が制作した「映像を用いて画面に表示されていない情報を脳内で補完する」先行事例について、表現方法論として整理を行った。その一端は岩波書店「思想」2016年4月号に「驚きを生む瞬間を観測する」という論文として掲載されている。 この整理によって、「鑑賞者に補完させる」という能動的な行為の誘発には、メディア上のコンテンツによって、注意と視線の誘導と認知の手がかりになる断片的な視覚情報の提示がなされる必要があるため、本研究におけるメディアデザイン技法の開発においては、視線誘導の設計と補完を誘発する断片的な情報の設計を条件化することが必要であることが確認された。 また研究の次の段階として、日本古来のメディアである絵巻物を見る際に行われる「複数の絵によって構成された1つの巨大な図像を身体を使って部分的に表示していく」という行為自体に着眼し、絵巻物と同様、視線や身体の移動によって部分的な情報を紐解きながらある1つの巨大な図像を鑑賞する、VRプレイヤー上で閲覧する360°画像による体感型作品を試作した。 この作品は画像のみの静的な情報提示にも関わらず、鑑賞者に視線や身体の移動が伴う動的な体験を引き起こすことが出来ている。また、巨大な全体像の中から部分を切り出すという情報提示によって、鑑賞者への能動的な体験の誘発が可能になるということが、この試作によって確認された。 27年度は、新旧のメディアにおける本質的な視聴体験の類似性や構造に着目することで、注意や視線誘導を促す新しいメディア表現技法を開発するための、新しい着想を得ることができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、ひとつの成果として、新たな表現方法論を作るというテーマの初段階として、27年度に「驚きを生む瞬間を観測する」という映像制作の表現方法論に関する論文の執筆を通じて、本研究のテーマの1つである「提示した情報を手がかりに鑑賞者にあるイメージを補完して認知させる」という点に関しての先行事例分析ができたことがある。これにより、今後の研究・作品制作の基盤を作ることができた。 また、「これまでのメディア表現の事例研究」を行っていく中で、単にメディアそれ自体を調査するのではなく、実際に鑑賞している人間の行為そのものに着眼し、分析を行うことで、VRプレイヤーによる360°画像の視聴という行為が技術こそ最新のものであるものの、鑑賞行為の構造自体は非常に類似しているところから、「静的な情報提示により、鑑賞者による能動的な体験行為を促す」ための試作開発にまで辿り着くことができた。 この試作を元に、実際に作品として多くの人の鑑賞に値する設計を行うためには、多くの試作開発による試行錯誤が必要であり、27年度中には完成することができなかったため、28年度も引き続き制作を行うものとする。また、本研究の成果発表の為、展示会場の選定を行い、28年度の開催を決定した。 また、最終成果発表を行うためには、まだ作品としての事例が足りない。今年度はメディア表現事例の分析の中から1つの可能性が発見された段階で、それらの可能性を検証するために一度試作に取り組んだため、別の方向性のメディア表現の事例分析をさらに掘り進めることができなかった。こちらの分析は28年度も継続し、先行事例の分析から表現の試作開発という一連の流れをできるだけ数多く積み重ねられるようにする。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である28年度は、研究の成果を社会へ提示する機会として、1月に国内で成果発表展を行い、作品展示及び作品に至る研究のプロセスの展示を予定している。そのため、28年度は展示に向けて作品制作を行っていく。 作品内容としては、前年度から研究課題として取り組んでいる、「静的な情報提示によって、そこには含まれていない動きや質感を鑑賞者の頭の中に作り出す」というテーマに基づいて、印刷物、ディスプレイによる静止画、VRプレイヤーを用いた360°画像という、静的情報を提示できるメディアそれぞれを用いた複数の作品の制作を予定している。 そのため、27年度から継続する形で、メディア表現の先行事例の分析を元に鑑賞者の体験に着眼することで作品の試作開発を行っていく。 また、展示に合わせて展示記録と本研究のプロセス並びに作品解説を掲載した図録を発行し、本研究の目的である新しいメディアデザイン技法を広く提案していきたい。 映像を取り巻く状況は、日々更新されており、社会にはデジタルサイネージを始めとした様々なディスプレイメディアが偏在している。このように視覚情報提示を行うメディアは多様化したものの、まだこれらのディスプレイや多様化するメディアに対応できる具体的なデザイン技法や表現方法論は提案されていないため、本研究では今後の視覚表現の基盤になるような、新しいメディアデザイン手法を提示していきたい。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では27年度にメディア表現の先行事例の分析を完了し、28年度に試作の開発をする予定だったため、分析に係る資料のための物品費を申請していたが、研究プロセスの中で27年度に部分的に分析を終えた段階で一度試作開発を行ったため、次年度使用額が生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度に引き続き28年度も継続してメディア表現の先行事例分析を行うために使用する。また、メディア表現は書籍以外にも映像メディアやハードウェア、ソフトウェア等多岐にわたっているため、資料として書籍以外の物品も購入する予定である。
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