2015 Fiscal Year Research-status Report
キリシタン文学における日本古典文学の受容と影響をめぐる比較説話学的研究
Project/Area Number |
15K12851
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
土屋 有里子 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (70339620)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | キリシタン文学 / サントスの御作業 / 聖人伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本中世末期から、キリスト教の宣教師たちによって作られたキリシタン文学について研究を行った。本年度はまず、キリシタン文学関連図書の読み込みを行うと共に、日本で刊行されたヨーロッパの聖人伝である『サントスの御作業』を対象として、考察を行った。本作品は従来、ヨーロッパで爆発的な人気を得た聖人伝『黄金伝説』と少なからず影響関係を持つとの指摘があるが、原典にはない日本独自の自由な翻訳が見られ、その翻訳語に多くの仏教語が使用されている。その言葉の使用状況や、説話的モチーフの共通性を意識して読み進め、『黄金伝説』以外の聖人伝からの影響関係も考慮しつつ、現代語訳を進めている。 典拠と思われる先行作品との比較検討と共に進めているのが、『サントスの御作業』自体の伝本の問題である。マヌエル・バレト写本と、島原加津佐で印刷されたキリシタン版との比較から、日本向けに独自に改変された記述を特定し、改変に影響を与えたであろう日本古典文学作品との関連を調査した。 また、禁教下の日本から、迫害を受けた宣教師たちが逃れていったマカオに現地調査に赴き、関連機関において調査を行った。聖ポール天主堂のファサードに見られる彫刻の日本的意匠から、キリシタン文学の改変に共通する水面下の意識を考え、聖ドミンゴ教会の博物館ではファサードのマリアと共通する無原罪のマリア像を確認した。イエズス会の本拠地でもあったマカオは、他にも聖ヨセフ教会がフランシスコ・ザビエルの上腕骨を所有するなど、日本布教に関わる重要な遺物を確認することができるが、今年度は調査期間が短く、限られた地域の調査に留まったため、再訪の必要性を残した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
キリシタン文学関連図書を読み込み、『サントスの御作業』を読み進め、現代語訳する作業、及び説話のモチーフに着目した東西説話の比較分析は順調に進んでいるが、事情により予定していた国内外の調査が十分に出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
『サントスの御作業』についての基本調査と現代語訳は今年度も継続して行いつつ、その作業において知見を得たことについて、論文発表していく。特にフランシスコ会の創始者であり、第二のキリストとも呼ばれるフランシスコの伝記に着目して、『サントスの御作業』のフランシスコ伝の元となった典拠との比較、日本的改変を考えていく。 同時に、キリシタン文学の背後にある世界観考察のため、ド・ロ神父によって作られた天国、地獄図に着目した研究を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度、家庭の事情により、予定していた国内出張、海外出張にほぼ行くことが出来なかった。事情は解消されたので、今年度、前年度に行く予定であった調査地も含めて精力的に実地調査を行うつもりである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外実地調査として、イタリア、ポルトガル、マカオにおいて調査を行う。 国内実地調査として、長崎、熊本県天草、青森県恐山において調査を行う。、
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