2015 Fiscal Year Research-status Report
(没)個性の美学――E・M・フォースターとヴァージニア・ウルフを中心に
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15K12861
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岩崎 雅之 早稲田大学, 文学学術院, その他 (00706640)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | モダニズム / ヴァージニア・ウルフ / E. M. フォースター / 教養小説 / イングリッシュネス / 野外劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に当たる2015年度においては、E. M. ForsterとVirginia Woolfの作品の詳細な分析を行った。今年度は、まずWoolfの没個性のナラティヴが具体的にどのようなものなのかを明らかにするために、盛期モダニズムの時期に発表されたTo the Lighthouseを分析した。その際にLily Briscoeが獲得するヴィジョンに注目し、科学的・機械的・帝国主義的言説がどのように結びついているのかを明らかにした。Lilyは芸術家としての目を持っている人物であるが、彼女の知覚は科学技術によって拡張され、その身体は機械論的に認識されており、それによって獲得された経験が、最終的に帝国主義的言説を内包するポスト印象派的ヴィジョンの中に収斂していくことを示した。この研究成果は「『灯台へ』におけるヴィジョンのあり方ー科学的、幾何学的そしてコロニアルな目」という論文として『ヴァージニア・ウルフ研究』第32号に掲載された。 続いて、1930年代からForsterとWoolfが関心を寄せていた野外劇に注目し、(没)個性の美学を通じて、自己と国家の関係、すなわち「わたし」と「わたしたち」の関係がどのように表象されているのかを考察した。具体的には、WoolfのBetween the Actsをテクストとして、野外劇がどのように用いられているのかを分析した。その結果、人間と非人間的なものの境界を越えた、全く新しい共同体の創出をWoolfが文学的に試みていたことが明らかになった。この研究成果はすでに『ヴァージニア・ウルフ研究』第33号に掲載されることが決定しており、また同様の主題で今夏国際学会で発表することも決まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ForsterとWoolfの作品における自己と国家の関係に関する研究を、概ね当初から計画していた通りに推進できているものと思われる。その理由としては、まずTo the LighthouseにおいてWoolfの没個性の美学の具体的な表れを分析し、その結果彼女のナラティヴには科学的・機械的・帝国主義的言説が複雑に絡み合っていることを明らかにすることができたからである。このことにより、先行研究ではまだ十分に論じられていなかった、盛期モダニズムとウルフの多層的な没個性の語りの関係の一端を示すことができた。 また、Forsterの「パーソナル」なナラティヴに関しても、初期の教養小説的作品から最後のA Passage to Indiaを、伝統的語りとメタナラティヴという双方の観点から分析し直すことで、Forsterが伝統的な語りをモダニズム的に、また実験的語りをより伝統的に発展させている作家であることがわかった。これらの特徴は、作者自身のパーソナリティを連想させる語りが登場する、Howards EndとA Passage to Indiaにおいて顕著である。 現時点ではまだWoolfとForsterの語りの詳細な比較は行っていないが、これも当初計画していた通り二年目に行う作業であるため、目下大きな問題とはなっていない。現段階まで概ね順調に進んでいるので、この研究結果を踏まえ、今後自己と国家の寓意物語と(没)個性の関係に関するより詳細な分析を行うことが可能になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に当たる2016年度には、2015年度の研究結果を踏まえ、さらに詳細にForsterとWoolfの作品における自己と国家の寓意物語と(没)個性の美学の関係を分析する予定である。今後は、盛期モダニズムから後期モダニズムの時期に発表された、両作家の作品を考察対象とする。A Passage to India、To the Lighthouse、The Waves、Between the Actsにおいて、ForsterとWoolfが「イングリッシュネス」をどのように表象しているかを明らかにする。1920年代から継続的に起こった帝国主義的男性性の求心力の低下、すなわちイングリッシュネスの衰退により、ForsterとWoolfの作品における「わたし」と「わたしたち」の関係にも大きな変化が生まれている。その変化は1930年代からのForsterとWoolfの野外劇の取り扱いにも見られる。A Passage to IndiaからBetween the Actsに至るナラティヴの徹底的な比較により、(没)個性の美学とイングリッシュネスの関係、すなわち自己と国家の関係が明らかになるものと予想される。この分析によって、ForsterとWoolfの初期の小説で用いられていた教養小説の様式がいかに換骨奪胎させられていったのかが明確になり、本研究の目的である(没)個性の美学の解明も達成できる予定である。
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Causes of Carryover |
国内における研究の基礎固めを行う目的で、当初初年度に予定していた海外出張を次年度に持ち越した。研究の理論的枠組みの構築を優先したためであり、このことにより海外リサーチを通じて収集すべき資料の種類が明らかになってきた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額に関しては、当初から計画していた通り海外リサーチのための旅費として使用する予定である。国際学会での発表を含め、必要となる資料の選定を厳密に行い、イギリスにおけるリサーチを通じて、日本では手に入らない資料を収集することを目的とする。
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Research Products
(3 results)