2015 Fiscal Year Research-status Report
現代フランスにおける死者の記憶:文学作品とモニュメントの分析を通じて
Project/Area Number |
15K12867
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
福島 勲 北九州市立大学, 文学部, 准教授 (30422356)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アンヴァリッド / 共和国広場 / テロ / バタイユ / C神父 / 死者 / モニュメント / 戦後 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文学作品とモニュメントの比較検討を通じて死者の記憶の表象のあり方を考えるという研究目的を掲げている。その初年度となる2015年度の前半期(4~9月)は、研究計画にもあげたジョアン・ミシェル『記憶の統治』(Johann Michel, Gouverner les memoires:les politiques memorielles en France, P.U.F., 2010)に加えてポール・リクール(Paul Ricoeur, La memoire, l’histoire, l’oubli, Editions du Seuil, 2000)、さらには両著作がともに参照するアンリ・ルッソ『ヴィシー・シンドローム』(Henri Rousso, Le syndrome de Vichy : de 1944 a nos jours, Editions du Seuil, 1987 et 1990)を発見し、コーパスと視野の拡大につとめた。その結果、大戦中を負の記憶としている点において日仏が共通の問題意識を有していること着目し、予備調査として日本では死者についての記憶がどのように継承されているかを分析し、それを論文にまとめた。 また、後半期には、幸い、本務校の海外研修と重なったため、フランスに長期滞在して、モニュメントと文献の調査を現地で進めることができた。その際、現実世界では大規模なテロ事件が発生し、その犠牲者たちのために共和国広場が一時的に国家の霊廟となり、アンヴァリッドが追悼施設と化すなどの現象を観察することとなった。それについても記事として発表を行った。さらに、研究計画にあげた死者の顕彰施設の調査も行いながら、学作品に現れる死者についての生者の証言をめぐって、バタイユが戦後まもない1950年に発表した『C神父』の詳細なテクスト分析を行い論文としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
海外研修の時期と重なったため、現地に長期滞在し、パンテオン、アンヴァリッド、凱旋門の無名戦士の墓、マリアンヌ像といった研究計画にあげたモニュメントを調査することができたのに加えて、共和国広場、普仏戦争、パリ・コミューンの死者を追悼するサクレ・クール寺院などの調査を進めることができた。また、予定していた文献に加えて、現地で新たに発見した広範な資料の閲覧、収集が可能となっている。さらには、論文執筆の時間も大幅に増やし、得られた成果を記事ないし論文のかたちでまとめた。2015年の研究計画はほぼ達成されていると言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度の前半も引き続き、フランスに滞在するため、帰国前にモニュメントの調査と文献の収集・分析を集中的に行う必要がある。とりわけ、ルーアン市にあるジャンヌ・ダルク歴史館や第一次世界大戦後の市町村に国費で建立された戦没者慰霊碑および慰霊像の調査も本研究に有用であろう。したがって、前半期は現地調査と文献収集に傾注することが研究目的の遂行に有用であろう。一方で、後半期には、現地で収集した資料の整理と分析、さらにはその成果を論文にまとめること、また、発表の場を作ることが主な活動となるであろう。
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Causes of Carryover |
本務校での海外研修時期と重なったため、2015年度は大幅に宿泊費の節約が可能になった。また、滞在先のパリで11月に大規模なテロ事件が発生したため、フランス国内の他の地域の調査は延期せざるをえなかっった。さらに、文献資料の収集に関しても、初年度は、まず必要な資料全体をリストアップし、資料の購入の優先順位を見定めるために、次年度に購入を延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度は、テロ事件も収束したため、パリ以外の地域のモニュメントの調査が必要とある。また、2015年度にリストアップにとどめ、延期していた資料の購入を集中的に行う予定である。
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