2016 Fiscal Year Research-status Report
現代フランスにおける死者の記憶:文学作品とモニュメントの分析を通じて
Project/Area Number |
15K12867
|
Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
福島 勲 北九州市立大学, 文学部, 准教授 (30422356)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | モニュメント / 歴史 / 死者 / ヴェルダン / 記憶 / モン・ヴァレリアン / ジャンヌ・ダルク / 虚構 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文学作品とモニュメントの比較検討を通じて死者の記憶の表象のあり方を考えるという研究目的を掲げている。その二年目においては、昨年度に予告した通り、フランスにおいて死者の記憶の担い手となるモニュメント群の広範な調査を行なった。とくに重要な成果をもたらしたのが、ヴェルダン市の第一次世界大戦戦没者慰霊碑ならびに戦争遺跡群、モン・ヴァレリアン要塞、ルーアン市のジャンヌ・ダルク歴史館、ジャン・ムーラン博物館、ル・クレール将軍博物館、ホロコースト記念館、リヨンのレジスタンと強制収容歴史センターの調査である。それらから確認されたのは、第一には、これらのモニュメント・施設とはまさしく「鏡像」という機能を有しており、こうした鏡像を通じて、国家や国民は自らのアイデンティティを再帰的に形成していくということである。つまり、モニュメントや展示施設は「歴史」を作る営みと重なりあっており、それゆえ時代や場所によってその内容や性格を変化させていくのだ。 それに対して、文学作品においては、モニュメントや展示施設と同じように「歴史」を作る方向に向かう作品も数多くあるが、その反面、「歴史」を作ることの困難を伝える方向に向かう作品もある。たとえば、ジョルジュ・バタイユ『C神父』であり、それは死者たちについての記憶の、死者たちによる伝言ゲームのような様相を呈しており、占領期の「歴史」を語るというよりも、「歴史」を語る=作ることがいかに困難であるかを語っている。この観点から、論文を執筆するとともに、その内容を発展させて、同作家の物語・小説的枠組みをもつ全作品の読み直しを試み、その成果の一端を、2017年4月に慶應義塾大学で開催されたジョルジュ・バタイユ生誕120年記念国際シンポジウム「神話・共同体・虚構:ジョルジュ・バタイユからジャン=リュック・ナンシーへ」で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度同様、海外研修の時期と重なったため、年度前半は現地に長期滞在し、パリ以外でリストアップしておいた重要なモニュメントを回ることができた。とりわけ、ヴェルダン市周辺のモニュメント、戦争遺跡群、ルーアンのジャンヌ・ダルク歴史館、リヨンのレジスタンスと強制収容歴史センター、モン・ヴァレリアン要塞の調査からは、こうしたモニュメント群自体が時代と場所の制約を強く受け、それらとともに変化して行くものであることを確認することができた。さらに、こうしたモニュメント・展示施設群が「語る」仕方と、たとえばジョルジュ・バタイユの作品が「語る」仕方は、同じ死者に関する記憶を扱う場合でも、方向が大きく異なるのではないかという仮説を一部検証することができた。その成果は、一部を論文として発表するとともに、帰国後は、国際シンポジウムにも参加し、さまざまな専門の人々から研究を発展させる方向について多くの示唆を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究開始時点では、死者の記憶をめぐるモニュメントと文学作品の違いという、やや漠然としたところも残る「萌芽」的なテーマであったが、具体的な対象を発見し、それに寄り添って研究を進めていくうちに、その「萌芽」が開花に向けて一つの具体的な研究として輪郭を取るにいたった。それゆえ、当初はモニュメントと文学作品の無作為的なデータベース構築(資料収集と分類、コーバスの拡大)を主たる作業としていたが、二年間の研究調査を経て、研究対象と方向性を絞り込み、それを深く分析して行く作業がより有用であると考えられる。したがって、最終年度は、現在集めた資料を分析・整理するとともに、未調査のモニュメント・施設や論文執筆の際に新たに確認が必要となった資料の再調査を現地で行い、最終的には論文ないしシンポジウムでの発表によって本研究の成果を公表することを目指す。
|
Causes of Carryover |
初年度ならびに当該年度において、本務先の海外研修と重なったため、旅費を大幅に節約することができた。その反面、現地で新たな資料を発見する機会が増大し、それらを収集するために物品費が超過することとなった。また、資料整理のためにやむなくスキャナ機能付きの印刷機を一台購入したために、物品費の使用が増えた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度は、3年間の研究の総括として、フランス現地で調査し残したモニュメントの調査および研究成果の公表に向けて重要モニュメントの再調査を行う。次年度使用額および翌年度分として請求した助成金は、この長期間ないし複数回として予定している最終調査の旅費と資料収集、およびそれらの資料整理と研究成果の公表の準備にあてられることになる。
|