2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12868
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
宮嵜 克裕 同志社大学, グローバル地域文化学部, 助教 (00411075)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | マラルメ / イジチュール / 生成論 / ポリフォニー / 発話行為 / テクスト / ディスクール / 視点 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度から継続している本研究は,テクスト生成論の立場からマラルメの『半獣神』草稿と『イジチュール』草稿の再検討を通して、国内外で初めてその作品生成プロセスの解明と、ディプロマティック版による翻刻を試みることを目的とする。同時に,最近の言語学概念を草稿分析に適用し、両作品の発話行為における「主観性」と「内的ディスクール」の問題を考察し,その文学技法上の新たな側面を照射することをも目的とする。 平成28年度は主として、(1)『イジチュール』草稿の調査、(2)ディプロマティック版での草稿の翻刻、(3)発話行為論の見地からの同草稿群の解析、を実施した。 (1)に関しては夏期休暇中に、パリのJ.ドゥーセ文学図書館にて、『イジチュール』草稿・第8葉から第20葉、および第37葉から第50葉までの調査を実施した。その際、ベルトラン・マルシャル校訂版『マラルメ全集第1巻』収載の転写版との比較照合を行ったが、マルシャル転写版とは異なる読み方が可能な部分や、その転写方法に疑問の余地が残る部分などが散見された。 (2)に関しては、(1)と平行して同時期に、草稿翻刻を行なった。このディプロマティック版翻刻に関しては、当初の研究計画通り、最終年度に解題を付した上で紙媒体で刊行予定である。 (3)に関しては、草稿解析中に、たとえば1人称単数から3人称単数への人称代名詞の変更や、直説法複合過去から単純過去への動詞時制の変更、不定冠詞から指示形容詞への限定詞の修正等々、発話行為の「主観性」に関して、ポリフォニー言語学の見地から重大な問題を引き起こす言語的痕跡が発見された。草稿段階でのこのような人称・時制・指示詞の加筆修正が、未完の短篇『イジチュール』の物語言説全体にどのような効果を及ぼしているかという問題に関する考察の結果は、平成29年度内に研究会等で発表し、論文として刊行する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パリのジャック・ドゥーセ文学図書館での『イジチュール』草稿調査に関しては、草稿の手書き文字の認識とその読み取り作業に想定外の時間がかかったため、2週間のフランス滞在ではすべての草稿を網羅的に調査できず、未見の草稿が数葉残ってしまった。このため、研究最終年度(平成29年度)の夏期休暇中に同図書館を再訪して未見草稿の調査を実施し、完璧を期する。『イジチュール』草稿ディプロマティック版翻刻に関しては、すでに同草稿第8葉から第20葉、および、第37葉から第50葉までの翻刻が完了しており、それ以外の未見草稿に関しては、上記調査と平行して完成する。『イジチュール』草稿のテクスト解析については、すでに調査を完了した草稿に関しては、テクストの時系列的な生成プロセスにおける執筆順序の確定、および、加筆修正の言語的痕跡の解釈作業がほぼ終了している。その考察結果は、最終年度に研究会等で発表し、さらに学術論文としてまとめる所存である。
|
Strategy for Future Research Activity |
マラルメ『半獣神』草稿群の研究に関しては、その草稿テクスト内の加筆修正の言語的痕跡を、「抒情的主体」の問題系の中に置き直し、それをポリフォニー言語学の見地から分析することによって、その「独白」形式の発話行為に潜在する「対話関係」の特異性を新たに考察する必要があろう。また、『イジチュール』草稿群の研究に関しては、発話行為の主体の「視点」が、さながら合わせ鏡の表層で互いの鏡像が乱反射しあいながら無限に増殖していくかのごとく、幾重にも分岐し増殖していくディスクールの「文学性」の問題を、ポリフォニー言語学の概念道具を用いながら考察していかなければならないであろう。これらの問題は、次年度の課題としたい。
|