2016 Fiscal Year Research-status Report
中国現代文学における通俗小説――Xu Xu・Wumingshiを中心に
Project/Area Number |
15K12869
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
杉村 安幾子 金沢大学, 国際基幹教育院, 准教授 (50334793)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | Xu Xu(徐ク) / Wumingshi(無名氏) / 通俗小説 / 1940年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、本研究の中核となる研究を行なった。具体的には以下の4点である。 1.資料の体系的・集中的収集:平成27年度に引き続き、徐クと無名氏に関する資料よび文献と中国通俗小説に関する研究論著・論文の収集を集中的に行なった。特に無名氏が影響を受けたと思われるノルウェーの作家クヌート・ハムスンに関する書籍・資料に関しては、興味深い作品や論文を収集できた。 2.データの整理・統括、資料集・書誌作成:これまで日本においては、無名氏や徐クに関する研究の基盤ともなるべき体系的資料は存在していない。データをとりまとめて、資料集・書誌を作成した。これは最終年度に完成を目指している。 3.資料の精読・考察:平成27年度に引き続き、徐クと無名氏の作品の精読を行なった。その際、「通俗性」に主眼を置き、何故彼らの作品が当時爆発的な人気を得たのか、そして何故「通俗」と見なされたのかを考察した。その結果、「美男美女」による「悲恋」物語は、彼らの作品において重要な定型となっていることがわかった。通俗文学を支える要素について、引き続き文責・検討していく。 4.成果発表:上記の作業および調査を受け、以下の2点の論文をその成果とする。①徐ク『鬼恋』試論――悲恋への序奏(『言語文化論叢』(金沢大学国際基幹教育院外国語教育系紀要)第21号,査読無,平成29年3月,pp.99-119)、②徐クと朝吹登水子(研究ノート)(『お茶の水女子大学中国文学会報』第36号,査読有,平成29年4月,pp.-) ②においては、徐クの作品『風蕭蕭』と日本のフランス文学翻訳者であった朝吹登水子の『愛のむこう側』の呼応関係について、重要な指摘を行なうことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた国外における資料収集は、公務多忙により所期の目的を達することができなかったが、その分、作品の精読や考察・分析に時間を割くことができた。特に、徐クに関しては、出世作となった『鬼恋』の作品分析と、日本のフランス文学翻訳者朝吹登水子との関わりを紹介し、徐クの長編小説『風蕭蕭』の作品世界に織り込まれた日本人女性像の原型を指摘した2編の論文の執筆によって、最終年度の総括的研究に向けた充分な素地が用意できたと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度を迎えるに当たっては、精力的な研究発表・論文執筆に努めたい。徐クと無名氏という同時期に大活躍した2人のベストセラー作家の共通点としては、これまでの研究から「美男美女の悲恋を描いた通俗作家」という括りが与えられるが、悲恋の背景には伝統的家父長制の束縛や戦争の影響があり、単なる読者のメロドラマ嗜好への合致がベストセラー化に結び付いただけではなく、民族感情や愛国心の盛り上がりも指摘できる。この点を主柱として中国1940年代の通俗小説の系譜を考え、論文執筆を進めていく。
|
Causes of Carryover |
書店代理店を通じて中文書の購入手配を進めたが、平成28年度中に当該図書の入手および支払いが不可能であるとわかったため、次年度以降の使用を考えた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に購入を予定していた中文図書の購入に充てる予定である。
|