2016 Fiscal Year Research-status Report
1894~1896年戦争の記憶に関する比較文学的調査・研究
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15K12870
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (90324889)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 戦争 / 記憶 / 非国民 / 外国人 / 文明 / 帝国 / 言説空間 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度はまず、1894~1896年戦争の前哨をなす1874年のいわゆる「台湾出兵」をめぐる諸言説、特に、当時の日本国内における戦争熱に関する分析検討を行った「1874年の「台湾危機」」を公表した。この論において、1894年戦争を通して現実化する、帝国日本の中国・台湾に対する眼差しは、すでにこの1874年の時点で一定以上成立していること、1874年においては中国(清朝)との全面戦争は避けられたものの、その危うさに関する思考は回避されたことを論じた。 次に、9月、東京の「歴史と文体」研究会にて、19世紀前半の歴史家・頼山陽が1890年代の日本の為政者に与えた思想的影響の射程距離についての研究発表を行った。また、11月末に韓国仁川で開催された東アジア日本研究国際シンポジウム(EACJS)において、「1894~1896年戦争における主戦論・非戦論再考」を発表した。これは、日清戦争勃発時の日本国内の言説状況を展望した上で、非戦論を唱えた勝海舟や、戦後の風潮を批判した西村茂樹、非国民を描いた泉鏡花、学校教育の現場における排外熱の暴力性を描いた中勘助等の言説を検討し、その意義と限界を論じたものである。 また、2017年の年明け以降、この報告内容をもとに、論文「日清戦争と在留清国人表象」を執筆中である。この論文において、日清戦争地下に上演された歌舞伎『明治産会津組重』や、当時の新聞記事等を素材として、同時代の横浜・神戸を代表とする在留清国人に対するメディアの眼差しの諸相の分析を試みている。 さらに、『日清戦争実記』等、戦争を契機として成立した雑誌媒体における諸記事の読解を通して、当該戦争下の言説の諸相の研究、さらには日中戦争下の諸状況との共通性と差異に関する検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の言説状況に関する収集および分析検討・研究成果の公開は順調に進んでいる。韓国・台湾・中国の資料収集も一定程度の進捗はあるが、まだ(特に韓国に関しては)努力する必要がある。 また、韓国・台湾・中国の資料の分析検討および研究成果の公開についてはまだ現在進行形である。一部は今年度中に学術論文等の形で公表する見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は中国・台湾・韓国における1894~1896年戦争言説に関する分析検討および研究成果の公開を主に行う。 それを通して、日本の言説をも含めた東アジア比較言説研究の視座を構築する。 また、当該研究課題の探求を踏まえた上で、次の研究課題である、20世紀における東アジア規模の戦争であった1930年代の日中戦争に関する比較言説研究における論点の抽出・問題整理・検討・視座構築等の作業を開始する予定である。
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Research Products
(6 results)