2017 Fiscal Year Annual Research Report
Studies of Comparative Literature about Memories of The Sino-Japanese War
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15K12870
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (90324889)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 戦争 / 記憶 / 語り / 東アジア / 他者 / 感情移入 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度はまず、2016年度に執筆した論文「日清戦争と在留清国人表象」を掲載した書籍(小峯和明監修・金英順編『シリーズ日本文学の展望を拓く』第1巻『東アジアの文学圏』が刊行された。また、同じく昨年度に執筆した論文「二十世紀の和泉式部伝説-『かさぶた式部考』における「救済」について-」も張龍妹・小峯和明編『東アジアの文学と女性と仏教』に掲載される形で刊行された。後者は日清戦争前後の産業化の流れの中で形成されてきた20世紀東アジア(特に九州炭鉱地帯)の現実と、中世の和泉式部伝説を交錯させた秋元松代の戯曲『かさぶた式部考』に関する考察である。 また、2017年5月にはRepresentations of Nomads in the Works of Ishimure Michikoを執筆し、11月刊行の管啓次郎氏等編の英文論文集 Ecocriticism in Japanに掲載した。これも日清戦争前後に起源をもつ日本の産業化の帰結である水俣病と正面から取り組んだ石牟礼道子のテクスト群とその語り口に、前近代日本における非定住民(非農業民)に関する「記憶」を読みこもうとする試みである。 2017年9月には、ポルトガルのリスボンで開催されたヨーロッパ日本学会(EAJS)国際大会において、「境界のポリティクス」の彼方へ-戦争叙述における複数的視点の可能性について-」と題する発表を行い、前近代日本において東アジアの(感情移入できない)他者に対する対等な関係性の自覚に基づいた認識が蓄積されなかったことが、日清戦争以降の植民地主義の土壌をなしていることを指摘し、その傾向を克服する方向性等について具体的なテクストを通して論じた。 今後は、本研究の研究成果等に依拠しつつ、20世紀前半の日本人の歴史的想像力のの在り方と前近代との潜在的な連続性の諸相について、探求を拡大していきたいと考える。
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