2015 Fiscal Year Research-status Report
新自由主義的時空間と認識論的布置としての文学・映画・現代アート
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15K12871
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ハリウッド映画 / ポピュラー文学 / 現代アート / 美術館 / 新自由主義 / 都市空間 / スピード |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の文学・映画・アートが新自由主義的時空間をどのように概念化し、知覚の対象として提示し、さらに身体的に経験可能なものとして構築しているかを理論的に考察すると同時に、具体的な作品や事例を詳細に分析することで明らかにすることが、本研究の目的である。平成27年度は主に(1)新自由主義的時空間における《速さ》と《遅さ》、(2)immediacyあるいは媒介と非媒介の弁証法、(3)複雑化する時間と空間、という3つのテーマの全体像をより深く把握するための予備的考察に着手し、個別の問題やテクストを分析する際に拠り所となる理論的基礎固めを終えるという課題に集中して取り組んだ。研究計画調書で挙げた文献を精読することだけではなく、調書を準備している段階では気づいていなかった、Toscano and Kinkle, Cartographies of the Absolute、Grégoire Chamayou, A Theory of the Drone、Paolo Virno, Déjà Vu and the End of History、Steven Shaviro, No Speed Limit、Mark Fisher, Capitalist Realism、Hito Steyerl, The Wretched of the Screenなどを含む多くの重要な理論的テクストを新たに文献表に加えることができたのは大きな収穫である。11月には、米国プリンストン大学で開催された“Asia・Theory・Visuality”というタイトルのシンポジウムに招待され、アジアの視覚文化と新自由主義に関する基調講演をおこなった。また平成28年3月に米国ハーバード大学で開催されたアメリカ比較文学会の年次大会において、現代日本文化と新自由主義的時空間について発表をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までのところおおむね順調に進んでいる。文学研究や映画・視覚文化研究それぞれに備わった長所を最大限生かしながら、変化の到達点が見えにくい混沌とした状況にある人文学の刷新へとつながる可能性のある新しい研究領域を生みだそうとする、ある意味無謀とも言える本研究は、既存のディシプリンの枠組みに容易に収まりきらない問題を扱っている。そのため、研究遂行に必要な先行研究の広く共有されたリストがすでに存在しているわけではなく、課題に関連した研究書や論文、資料などを根気よく一から探し出す必要がある。この点に関して、研究一年目である平成27年度に大きな成果を挙げることができた。さらに研究初期の段階でプリンストン大学およびハーバード大学で講演・発表をおこない、アメリカを拠点に活動する関連分野の研究者から様々なフィードバックを得たことも、今後研究を進める上で貴重な経験であった。ただし、当初予定していた研究実施計画から少し逸れてしまったことを記しておかなければならない。まず国内の美術館のフィールドワークを実施することができなかった。これは時間不足や予算のせいではなく、美術館と新自由主義的時空間について理論的考察を深めることができず、フィールドワークの目的を明確化することが困難であったことに起因する。海外からの研究者招聘に関しては、残念ながら招聘予定者とスケジュールの調整をつけることができず、見送らざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)新自由主義的時空間と映画・視覚文化・文学の関係を理論的に分析する作業をさらに進めること、(2)現代アートと美術館が新自由主義的時空間とどう関わっているかについての考察を本格的に始動すること、さらに(3)研究の成果をまとめて論文や講演のかたちで発表することが、平成28年度の主な活動目標である。(3)に関しては、すでに5月に香港大学(University of Hong Kong)のシンポジウム"Contextualizing Asian Ecocinema"での発表が決定しており、7月にはシンガポール国立大学(National University of Singapore)での講演も計画されている。また9月以降、複数のアメリカの大学から講演を依頼されており、(1)に関連した研究成果を発表する予定である。申請者は平成28年9月から平成29年1月まで客員教授(visiting professor)としてプリンストン大学に滞在することが決まっているため、当初の研究計画通りに海外から日本へ研究者を招聘しワークショップを開催することが本年度も日程的に難しい。そのため代替案として、プリンストン大学あるいはアメリカ東海岸にある別の大学でワークショップをおこなうことを現在検討中である。(2)に関しては、具体的な理論的課題と方法論を練り上げた上で、アメリカおよび日本の美術館を選択しフィールドワークをおこなうことにする。
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Causes of Carryover |
海外から研究者を招聘し講演会や大学院生とのワークショップをおこなう予定であったが、招聘予定者とスケジュールの調整をつけることができず、旅費や謝金を支払う必要がなくなったこと、国内での研究調査旅行を延期したこと、さらに海外の学会から招待を受けたため科研費から旅費その他の経費を支払う必要がなくなったことが、次年度使用額が生じたおもな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年9月にアメリカ・ミネソタで開催されるアジアのポピュラー文化に関する学会で研究発表を予定しており、前年度未使用額の一部はそのために必要な旅費その他の経費に充てるつもりである。さらに可能であれば未使用額の一部を使って、プリンストン大学あるいは別の大学で本研究テーマに関連したセミナーをおこないたい。
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