2015 Fiscal Year Research-status Report
日英翻訳学習ツールと翻訳コーパスを用いた日本語話者の英語ライティング分析
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15K12915
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
阿久津 純恵 東洋大学, ライフデザイン学部, 講師 (20460024)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 翻訳 / ライティング / コーパス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、①日本語を母語とする英語学習者が、日本語を翻訳して英文を書く際に陥りがちな傾向を分析することによって、翻訳スキルを応用した英語ライティング教育方法を提案すること、②学習者のオンライン自主学習ツールとしてだけでなく、英語学習者翻訳コーパスを構築するシステムとして、オンライン翻訳学習ウェブサイトを開発することであるが、平成27年度の研究は、当初の予定通り①および②の目的にそって、それぞれ研究を展開した。 平成27年度の研究実施計画の1点目である「翻訳コーパス・学習者英語コーパスに関する先行研究の検証」については、特に、人称代名詞における日本語と英語の役割の相違に着眼し、日本語話者と英語話者の翻訳作品の英文の特徴の比較分析をおこなった。日本語の影響による英語の誤用傾向を指摘した先行研究を発展させ、日本語話者の書く英文に共通する誤用が、人称の役割の相違に起因するものであることを指摘した。この分析・考察内容は、平成27年5月Corpus Use and Learning to Translate (アリカンテ大学)にて発表を行った。 さらに、翻訳コーパスの英語教育への応用研究として、母語の能力を活かした翻訳エクササイズを通して、日本語と英語の差異を意識させることから、より正確な英語を書く能力を高めるアプローチについて、平成27年6月CAES International Conference 2015(香港)にて発表を行った。 平成27年度の研究実施計画の2点目である「オンライン日英翻訳学習ツールの作成」については、学習者のオンライン自主学習ツールとしてだけでなく、学習者属性情報データベースおよび英語学習者翻訳コーパスを構築するシステムとして、オンライン翻訳学習ウェブサイトのデザインと作成を開始し、システムのテスト段階にまで研究を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究実施計画の1点目である「翻訳コーパス・学習者英語コーパスに関する先行研究の検証」に関しては、主にL1の影響による誤用について考察を行った。翻訳作品や翻訳者を対象とする研究及び翻訳者養成を目的とした研究が主であるなかで、英語学習者による翻訳コーパスの研究に向けて、コーパス言語学・翻訳学の文献研究を行い、日本語と英語の人称の役割の違いに着眼した研究を行った。また、翻訳コーパスと英語教育を組み合わせる研究も行い、翻訳のエクササイズを用いた英語力の養成についても考究することができた。先行研究の中でも議論のわかれるL1の影響を図る研究において、学習者による翻訳英文コーパス分析することによって、誤用の要因にアプローチしようとする研究は意義があったものと考える。しかし、コーパスのサイズが未だ小さいため、当初計画していた量的な分析については、量的分析方法の改善が必要である。また、英語学習者翻訳コーパスに特化した研究については、翻訳学、コーパス言語学の両面から、引き続き丹念に文献研究を続けていく必要がある。 2点目の「オンライン日英翻訳学習ツールの作成」に関しては、研究を概ね計画通りに実施することができた。オンライン日英翻訳学習ツールの作成を外部委託し、専用のサーバー上に、翻訳学習用のウェブサイト構築を開始した。学習者は、専用ウェブサイトに英語学習歴などの学習者属性を登録の上、自身の提出課題を管理するアカウントを所有することができる。各自、個人アカウントから、翻訳課題テキストを翻訳し、翻訳テキストとレビューコメントを提出することができ、提出課題は管理者カウントでデータベース化される。データ収集に向けたシステムが試用段階に入ったので、具体的なデータ収集実施に向けてシステムをテストする。今後は、収集されるデータのデータベース化について、具体的改善点を検討していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、翻訳学とコーパス言語学の枠組みを使用し、第二言語習得におけるL1の影響の測定を試み、その分析結果を基に翻訳エクササイズを作成・実施することで、日本語話者の母語と英語の運用能力を高めながら、英語ライティング力を養成するに適用するという点において意義があり、この目的を達成するために、平成28年度における研究推進の方策としては特に以下の3点が挙げられる。 ①オンライン日英翻訳学習ツールは、平成28年度に研究協力学生に試用協力を依頼し、段階的に試用実験を行う。研究協力学生からのオンライン日英翻訳学習ツールに関するフィードバックをもとに、必要な変更・改良を加えつつ、平成28年度中の完成を目指す。 ②オンライン日英翻訳学習ツールの試用過程において、研究協力学生の翻訳テキストを、サンプル翻訳テキストとともに日英パラレルコーパス化し、さらに学習者属性、英語習熟度、レビューコメント等の情報とともにデータベース化する。オンライン日英翻訳学習ツールのバックエンドのデータベースデザインについては、主にタグ付与機能を目指したデータベースデザインを検討する。 ③研究の重要な成果として期待される、日本語を母語とする学習者のL1の影響による誤用に関する研究については、前年度に引き続き、母語である日本語のどのような影響を受けて生じるものなのか考察を続ける。英語学習者翻訳コーパスの分析から、不自然な英語表現や誤用には、どのような傾向が顕在するか、翻訳学習者コーパス研究の理論面を補強しつつ、日本語と英語の言語的・文化的差異に着眼して分析し、要因を検討する。 以上の内容について、前年度の研究・分析内容を発展させ、研究成果については、適時学会報告または論文として発表する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の81,129円は、オンライン日英翻訳学習ツールの作成の外部委託費として見込んでいた一部である。段階を踏んで、共同での確認作業を行いながらツールの作成を進めているため、謝金の段階的支払いによって残額が生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額の81,129円は、平成28年度のオンライン日英翻訳学習ツール作成の外部委託費として、ツールの改良等、前年度の作業を補完する作業に対する謝金として使用する予定である。 このほか、平成28年度使用分として直接経費700,000円を請求予定である。当初の研究計画に従い、英語学習者コーパス分析・翻訳コーパス分析に基づいて英語学習者日英翻訳コーパスを構築するための統計関連図書購入費、オンライン日英翻訳学習ツール作成・改良外部委託費、研究協力学生への謝金、データ整理アルバイト謝金、成果発表旅費として支出予定である。
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