2015 Fiscal Year Research-status Report
戦後オーストリアにおける戦争犠牲者援護法の制定過程と国民福祉に関する研究
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15K12943
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
水野 博子 明治大学, 文学部, 准教授 (20335392)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | オーストリア / 国民福祉 / 戦争犠牲者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦時中ナチ体制下に置かれ、戦争経済システムへと統合されていたオーストリアが、国家再建・国民統合を進める際にどのような戦後補償制度を整備したかを明らかにすることにある。とくに、戦争時の爆撃や出兵によって被害を受けた者とその遺族など国民の大部分を包含する立法であった「戦争犠牲者援護法」の制定過程に着目し、「戦時福祉体制(Warfare System)」から「国民福祉体制(National Welfare System)」へと転換する筋道とその論理を探究する。また、同法によって創られた「戦争犠牲者=犠牲者国民」像が、1970年代以降に確立するオーストリア国民のための一国社会福祉国家体制の中にどう位置づけられるかを考察する。 以上のような研究計画のもと、27年度は、主に二つのサブテーマについて研究を進めた。 <1>赤いウィーン」期からナチ期に続く戦後福祉の特徴をとらえなおし、第一次世界大戦の「戦争犠牲者」(戦争未亡人や傷痍軍人などを含む)に対する補償政策の実態を調査した。また、同様の枠組みにおいてロマの人々に対する補償の問題も調査し、2015年12月に開催された駿台史学会大会シンポジウムでその成果の一部を研究発表した(明治大学開催)。 <2>戦争犠牲者援護法の制定過程について、関連する法文書や関連団体発行の新聞のほか、議会議事録等の調査のため、オーストリア国立図書館およびオーストリア国家文書館において史料収集を行った。とくにオーストリア国家文書館では関連する一次史料の所在を確認するとともに、1945年から1947年頃までの文書を閲覧、調査した。これらの史料に基づき、大部分の国民に関わりのあった「戦争犠牲者援護法」がどのような論理と思想のもとに制定されたかについて、同法の制定及びその政治的議論に着目して検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦間期オーストリアにおける戦争福祉/国民福祉の概要を調査するとともに、第二次世界大戦後から1947年頃までの戦争犠牲者援護法の制定にかかる一次史料の収集を行った。また、並行して関連する法文書や関連諸団体の新聞の収集も実施し解析した結果、地域や団体の性格によって異なる論調の違いなどについても一部踏み込んで検討にあたることができた。その成果の一部は2016年6月開催のオーストリア現代史学会(グラーツ大学開催、採択済み)において発表予定であり、調査ならびに史料分析の進捗状況は順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年6月に開催予定のオーストリア現代史学会でこれまでの研究をベースとした中間発表を行い、外部評価を受ける。そのうえで、28年度から29年度にかけては、とくに以下のサブテーマについて議論を深める。 <1>国民福祉の確立に至る国内の歴史的過程を特に戦後初期の時期を中心に明らかにし、戦時福祉が戦争犠牲者援護法を媒介にして国民福祉へと転換するための諸条件を解明する。そのさい、1945 年~1955 年にかけての4か国占領期、すなわち戦後復興期に戦時福祉がどのようにして国民福祉へと切り替えられていくのかを引き続き考察する。 <2>オーストリアの戦後補償制度の構築とその実施状況についての史料収集を継続し、データ分析と論点の整理・蓄積を行う。とくに、バイラー、シュトゥルツらによる人種的理由で迫害された人々への戦後補償研究と歴史家委員会による調査報告書集、及び申請者自身が進めてきた元ナチ・元戦犯への補償研究とを比較検証の題材として、戦争未亡人や傷痍軍人ら、あるいは空爆の犠牲となった人々すべてを包摂する戦争犠牲者援護法が戦後の社会政策全体においてどのような重要性を占めたかを検証する。議事録や関連省庁の文書(一次未公刊史料)等の史料は大部のため、28年度以降もオーストリア国立図書館、オーストリア国家文書館等において3週間程度現地史料調査を行う。
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Causes of Carryover |
史料調査に伴う予算の一部執行(約17万円)を年度末の3月に行ったが、所属機関では出張費の概算払い請求を受け付けておらず清算払いに基づく支出の処理が遅れたため、形式上の繰越金額が29万円ほどとなったが、実質的な繰越金額は12万円ほどである。この12万円については、オーストリア現代史学会での研究報告が採択され、そのための旅費として支出することが妥当と判断したことから次年度使用を行うこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越金12万円については、オーストリア現代史学会における学会発表(採択済み)の参加旅費として支出する予定である。
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Research Products
(3 results)