2016 Fiscal Year Research-status Report
戦後オーストリアにおける戦争犠牲者援護法の制定過程と国民福祉に関する研究
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15K12943
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
水野 博子 明治大学, 文学部, 専任准教授 (20335392)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 戦争犠牲者 / オーストリア / 国民 / 傷痍軍人または戦傷病兵 / 犠牲者支援 / 犠牲者国民 / 戦争未亡人 / 戦争孤児 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目の28年度は、以下の通り研究を進めた。 1. 2016年6月に開催されたオーストリア現代史学会(グラーツ大学にて実施)でこれまでの研究をベースとした中間発表を行い、外部評価を受けた。 2. 上記の学会で発表し、議論した成果を受けて、28年度の後半期はさらに、とくに以下のサブテーマについて考察を進めた。 <1>国民福祉の確立に至る国内の歴史的過程を特に戦後初期の時期を中心に明らかにし、戦時福祉が戦争犠牲者援護法を媒介にして国民福祉へと転換するための諸条件の解明に努めた。とりわけ1945年から55年までの四か国占領期に社会統合が促進される過程で国民的妥協が進められたことを明らかにした。その際、次の2点目とも関連する重要な成果として、戦争犠牲者というカテゴリーが、人種的理由で迫害された人びとへの補償の形態と一部連動して形成されていったことを突き止めた。 <2>オーストリアの戦後補償制度の構築とその実施状況についての史料収集を継続し、データ分析と論点の整理・蓄積を行った。とくにバイラー、シュトゥルツらによる人種的理由で迫害された人々への戦後補償研究と歴史家委員会による調査報告書集、及び申請者自身が進めてきた元ナチ・元戦犯への補償研究とを比較検証した。その結果、戦争未亡人や傷痍軍人らを包摂する戦争犠牲者援護法が、迫害の犠牲者らが体現したはずの「犠牲者」像を「簒奪」することで、犠牲者イメージを強化していったことを明らかにした。 関連省庁の文書(一次未公刊史料)が大部であり、しかも未整理の状態で閲覧可能になるまでに時間がかかることから、29年度もオーストリア国立図書館、オーストリア国家文書館等において3週間程度現地史料調査を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オーストリア現代史学会において研究の中間報告を行い、さまざまな研究者との議論を行うことができた。 また、29年度には日本西洋史学会においても研究報告を行う予定であり(発表確定済み)、順調に成果報告を行ってきている。 史料の収集状況については、先行研究及び公刊史料の収集が順調に進んだ一方、未公刊史料の方は当初予定していたよりも時間がかかると判断した。その理由は、当該テーマに重要な未公刊史料のほとんどが手つかずで未整理のままの状態にあること、またその量が膨大な量にのぼることがわかったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
29年5月に開催予定の日本西洋史学会において研究報告を行い、成果を公表するとともに、司会を依頼した千葉大学小沢弘明教授の指導を仰いで準備をする過程で論点の明確化と発展性の確認を行う(最終の打ち合わせは5月19日に開催予定)。また、最終年度の29年度は、より効率的に史料収集にあたれるよう、引き続き担当の文書館員と連絡を密にとり、本格的な研究への基盤づくりに努めたい。
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Causes of Carryover |
夏季休暇中に引き続き、冬期休暇中に史料収集に行く予定であったが、すでに収集を終えた史料の解析に時間を要したため、次年度に改めて史料収集を行うべく、計画を変更した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は、現在調査中の史料をさらに収集するため、オーストリア・ウィーンに赴く予定であり、繰り越した研究費は、その際の旅費及び史料の複写費にあてる。
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