2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15K12946
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小畑 弘己 熊本大学, 文学部, 教授 (80274679)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 土器圧痕 / 軟X線 / X線CT / 潜在圧痕 / 熊大方式 / 縄文土器 |
Outline of Annual Research Achievements |
圧痕とは土器表面や土器胎土内部に残るタネやムシの痕跡である。これらをシリコーンゴムでかたどりし、当時の植物利用や農耕の実態や土器作りの技術などを明らかにする方法は従来「レプリカ法」と呼ばれ、土器圧痕検出の主方法として広く採用されてきた。圧痕資料は遺跡土壌中から洗い出された植物種実とは質が全く異なり、汚染がなく、検出資料の時期や地域を特定できる利点があり、栽培植物の伝播問題の検証などに極めて有効である。ただし、土器に混入した種実や昆虫の数や質を精確に知るためには、土器表面にある「表出圧痕」のみでは不十分である。そのためには土器胎土に含まれる種実や昆虫の痕跡を遺漏なく検出する方法が必要であり、特に土器胎土内部の「潜在圧痕」の検出には軟X線やX線CTによる3D像復元による検証が不可欠である。従来のレプリカ法を含め、X線機器を用いて潜在圧痕を検出する一連の手法を「熊大方式」と命名した。この手法により土器粘土に混入された種実などが高率で含まれることが立証された。 ただし、この方式には軟X線画像による同定の精度の向上という課題が残されていた。本研究では、主として佐賀県嘉瀬川ダム関連で検出された縄文時代晩期土器や宮崎市本野原遺跡の縄文時代後期土器を対象とし、軟X線による観察によって種実や昆虫と推定された資料およそ70点をX線CT撮影によって検証した。この結果、縄文時代末の突帯文段階の土器に関しては、その8割ほどがイネやコクゾウムシなどと正確に特定できたが、縄文時代晩期前半の黒川式期の資料は1割にも満たない的中率であった。また、後期資料に関しては、ほぼ3割ほどの的中率であった。同一個体に表出圧痕がある場合やマメ類・コクゾウムシなどの形状に特徴があるものに関しては、8割~9割ほどの高い的中率が得られた。 結論として、軟X線による精確な同定にはさらなる経験と検証が必要であることが判明した。
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