2017 Fiscal Year Research-status Report
アラスカ先住民集落でのソーシャルワーク活動に資する実践人類学的研究
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15K12960
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Research Institution | Josai International University |
Principal Investigator |
井上 敏昭 城西国際大学, 福祉総合学部, 教授 (00265521)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ソーシャルワーク / 先住民社会 / 援助 / メンター / アラスカ / 実践人類学 / 若年者 / 伝統的技法 |
Outline of Annual Research Achievements |
①2017年8月5日から同月21日まで、合衆国アラスカ州にて現地調査・研究協力者との打ち合わせを実施した。研究対象集落フォート・ユーコンにおいては、先住民政府間協議会の事務局長、同協議会診療所のメンタルヘルス・行動障害担当のテクニシャン、先住民政府の教育雇用対策担当官、アラスカ州出張裁判所の元治安判事、小中高校の校長に、本研究が目指す計画の概要を説明し、助言を得た。さらに、調査地社会で若者に野外活動指導を行っている実践者やメンター教育を経験した高齢者にインタビュー調査を行った。フェアバンクスにおいては、アラスカ州政府の青少年保護観察官をオフィスに訪問し、アラスカ州内陸地域における青少年保護観察・更生プログラムの現状と課題について情報を入手し、本計画に関する助言も得た。加えて内陸アラスカ先住民組織TCCの教育担当官に面会し、本計画について助言を得た。これらによって、以下のことが明らかになった。1)現地社会の高齢男性は技術は持っていても教育に消極的でメンター候補者が少ない。2)アラスカ州で同様のプログラムを実施したが失敗している。現地の文化や人間関係、生活スタイルに合わせたプログラムの開発が必要。3)現地社会成員によるボランティアの教育活動は一定の成果をあげている。4)過去のメンター教育ではトレーニーの自主的な動機がカギとなる。本プログラムでは動機づけが重要となる。5)学校教育と両立できるプログラムとすること、また若者の社会生活の変化にも配慮し、参加可能なものとすることが肝要である。 ②支援システムの比較検討対象として千葉県警少年センターより、少年更生プログラムについて、資料入手した。 ③本研究の成果の一部を「内陸アラスカ先住民集落社会における子どもたちへのメンターによる教育」としてまとめ、『城西国際大学紀要第26巻第3号』に発表した(2018年3月刊行)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2017年度に実施予定だった現地調査については、同年8月に実施できた。しかし、本研究の目的である支援システム計画の策定と、その試験運用、公開についての作業は、計画より遅延している。理由としては、科研費研究初年度に父が逝去したため同年の冬に予定していた研究渡航ができなかったこと、法要や遺産管理に関して母を解除する必要があり、国内での資料分析も遅延したこと、現地研究協力者との検討の結果、研究への了解を取り付ける先が増えたこと、研究協力者の都合で検討会議の延期があったこと、本学での経営体制の予期せぬ転換で、学部長として従事する仕事内容が増加したことが挙げられる。 また、これまでの調査及び現地研究協力者との検討の結果、支援システムの恒常的な運用には、支援コーディネーターの養成及び報酬の支払いのための恒常的財源の確保など、本科研費研究の予算的・期間的範囲を超える問題解決が必要であることが新たに判明した。このことから、本科研費研究では、当初予定していた支援システムの本運用開始までは困難であると判断されるので、支援システムの運用マニュアルの作成と、その社会への提案までを目標とする。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度8月に現地訪問を1回実施し、現地の研究協力者とこれまでの研究成果について検討作業を行う。それに基づいて、本年度中に、本研究の目標である、「問題に直面した若者に対し、現地の伝統的メンター教育の方法を活用した支援システムを構築し、広く先住民社会に提示する」ことを目指す。ただしこれまでの調査の成果に基づいて妥当と考えられるシステムの構築には、恒常的な財源の確保やコーディネータの育成など、本科研費研究の予算的・期間的範囲を超える問題解決が必要であるため、本科研費研究では、支援システムの運用マニュアルの作成と、その成果を、調査地社会と社会状況を共有するアラスカ、カナダ極北地域の先住民社会が広く活用できるようオープンアクセス化するところまでを目標とする。 加えて研究成果の発表を実施する。現状で、日本文化人類学会研究大会での発表が採択されているほか、文化人類学及び社会福祉学分野での学会、研究会、シンポジウムでの発表を行う。さらに研究成果を学術雑誌や起用などに論文として投稿し、公開する。
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Causes of Carryover |
(理由) 研究代表者は、平成29年度中の海外調査および学会発表を計画し、うち1回の海外調査および1回の国内調査は遂行できた。また所属大学の紀要にて、盛夏の候票ができた。しかし前年に引き続きの父の遺産相続の処理に関して母親の支援する必要が生じたことや、本務校における経営体制の大幅な変更に伴う学部長としてエフォート増大から、学会等における研究成果の公表は断念せざるを得なかった。 (使用計画) 初年度冬に実施できなかった1回分の海外渡航(調査・研究協力者との検討作業)は本年8月に実施する予定であり、この海外渡航のための費用に残りの科研費補助金を使用する。ここでの研究協力者との検討作業を経て、本科研費研究の目標である、支援プログラムの策定を目指す。学会における成果発表については、本年6月に日本文化人類学会研究大会での発表が予定されているが、学会参加費用に関しては所属大学の個人研究費を充当する。
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Remarks |
本研究の成果に関する城西国際大学紀要掲載の「内陸アラスカ先住民集落社会における子どもたちへのメンターによる教育」は、上記URLにて5月下旬に公開予定。
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Research Products
(3 results)