2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K12981
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
手嶋 豊 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (90197781)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国際医療 / 医療政策 / 制度構築 / 医療ツーリズム / 国際公衆衛生 / 国際医事法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本には実績が不十分な分野であるため、参考資料となる外国文献を多数収集し分析することに費やしたほか、当該分野における海外の著名な研究者との意見交換を行うため、アメリカ並びにヨーロッパに各1回ずつ海外出張を行った。その結果として、国際医事法の重要性は諸外国で明らかにされつつあり、そのための検討枠組みもある程度固まってきていることを、知見として獲得することができた。 具体的には、Gostinに代表される、国際公衆衛生を中心的課題に置く分野では、開発途上国の問題が中心であり、その守備範囲は国際公法の一分野としての地位を確立しつつあることが確認できたが、ヨーロッパでもそれらの知見をふまえて独自の展開がなされていることもわかった。 一方、国際公衆衛生に限られない課題も、医事法の国際化の問題として含まれることが明らかになった。世界各国で、医療資源をどのように分配するか、国境を越えてくる人々に対してどのような態度決定をしなければならないのか等の問題が既に存在しており、先進諸国間の問題としても、先進諸国と発展途上国との問題としても先鋭化し、その端的な例は、医療ツーリズムである。医療ツーリズムについては、医療技術の問題だけでなく、医療に対する当該国の価値観が影響を与えている側面もあり、解決に向けて様々な提案がなされていることを把握できた。 国際医事法には、上記の二本の柱で展開されており、本年度の研究では、医療の国際化とそれに対する医事法の法的対応・課題について、先行業績の大雑把なりの鳥瞰図をもつことができ、その立ち位置を確認でき、かつ、今後より深く検討すべき課題を明確にできたことは、次年度の研究を進めるにあたって、非常に有意義なものであったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績に記載したように、研究計画の当初の予定に従って、順調に知見を獲得しつつある。本課題は、研究の対象が広い法分野に及ぶため、必ずしもまとまった論文業績という形では、現在のところ結実していないが、研究計画における想定の範囲内である。また、本研究開始後、アメリカばかりでなくヨーロッパにおいても異なった動きがあることも確認でき、これまでの検討に加え、より汎用性のある知見を得ることができたことも、これまでの進捗状況を積極的に考える理由である。 次年度である平成28年度中には、既に出版済みである医事法のテキストの改版を予定しており、そこに新たな章を加え、本研究の内容を反映させるための準備作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年1年間の研究により、国際医事法という形の課題設定が、世界的に展開しつつあるものであり、その重要性がようやく理解されるようになってきているとの知見、また、これまで十分にその問題の奥行きが自覚されず、そのためフォローがなされていない課題の抽出といった作業を、行うことができた。 これらは、本課題の世界の動向と相互関係、研究者自身が研究開始前に予測・想定していた立ち位置について、大よそ確認できたと考えられるものであって、今後の研究を進めるにあたって、基礎となる非常に重要な成果であると考えられる。 今後の研究は、こうして得られた知見をもとに、日本での医事法研究に、国際的な視野を加えることの具体的方法について、より展開してゆくことが必要である。その際、医事法研究に関する諸外国各国間の進捗状況の違いや、当該国の生命・身体に対する価値観の違いについて、従前よりもより深い配慮が必要であることも自覚されるに至っている。このため、アメリカ法に主軸を置きつつも、ヨーロッパの知見にも、研究開始当初よりも、重きを置くことを、本年の課題として検討していく。
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Causes of Carryover |
人件費・謝金、及びその他の予算を、研究計画においては計上していたが、研究を実施するにあたって、面談者との間では当該支払いが必要なかった。一方、購入を計画していた外国書籍等を中心に、その金額を高めに想定していたために、ごくわずかな金額が残る事態が発生することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度の額に比べて次年度は最終年度であり助成金額も小さいため、前年の残額を合算した額は文献購入予算として計上して使用することとする。
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