2015 Fiscal Year Research-status Report
「連帯」を嚮導概念とする社会的関係資本の蓄積に関する理論的及び実証的研究
Project/Area Number |
15K12992
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
今里 滋 同志社大学, 政策学部, 教授 (30168512)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 連帯経済 / 社会的協同組合 / 地域通貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
理論・歴史的研究として、J・L『社会的経済~近未来の社会経済システム』等の基本文献の再読と精査や生活協同組合の発展に多大な影響を与えたR.オウエンの著作等によって社会的・連帯経済のグローバルな現状および理論状況についての俯瞰図の構築に努めた。文献研究として、Ngai Pun et al. (eds.), Social Economy in China and the World (London: Routledge, 2016) およびテツオ・ナジタ〔五十嵐暁郎監訳〕『相互浮上の経済――無尽講・報徳の民衆思想』(みすず書房、2015年)から、とくに多くの示唆を得た。 実態調査として、世界的な連帯経済の動向に詳しく通訳を依頼する広田裕之氏(スペイン・バレンシア大学院)と綿密な打合せを行った上で、2015年9月にポルトガルおよびスペインにおいて現地調査を実施し、ヒアリングや資料収集を通じて研究データの蓄積に努めた。とくにポルトガルのポルト工科大学およびコインブラ大学経済学部と、同国の連帯経済の現状について意見交換を行った。またスペインのマドリード、コルドバ、およびバルセロナにおいて連帯経済や社会的協同組合運動を実践している団体や組織への訪問調査を行った。 そして、社会実験としては、大学院での「連帯経済研究」の講義を通じて、連帯経済型人材育成のプログラムの実質化を図った他、東北大震災の被災地において連帯経済型の復興支援プログラムを実施するNPOユナイテッドアースとの連携を実現し、連帯経済型事業に関する実践的研究のプラットフォームを構築した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、文献研究として、とくに精読し多くの示唆を得たのが、Ngai Pun et al. (eds.), Social Economy in China and the World, 2016である。急速な経済成長を遂げた中国は新自由主義の申し子でもあるが、その巨大で急速な経済成長の負の側面として、格差の拡大、公的福祉の後退、共同体の崩壊等の現象が見られる。著者たちは、中国の経済社会における「もう一つの経済」のモデルを連帯経済に求め、諸外国・地域との比較において、中国的連帯経済の方向性を見極めようとしており、の著作から本研究の新たなフィールドとしての中国の存在が浮上したことは極めて有益であった。また、米国人歴史学者・テツオ・ナジタ『相互浮上の経済――無尽講・報徳の民衆思想』からは、「経済と道徳」の視点から近世日本における連帯経済思想と実践の発展について多大な示差を得た。 フィールドワークとして、イベリア半島諸国における連帯経済ないし社会的経済の先進事例調査を2015年9月に実施した。ポルトガル・リスボン市の社会的協同組合タニア・ガスパール、ポルトガルの協同組合運動の父とも呼ばれるアントニオ・セルジオが活動拠点とした記念館長で、ポルトガルはもとより欧州の社会的経済の指導者の一人、ジョアン・サラザール・レイト氏に対してポルトガルにおける社会的経済の現状と課題について、それぞれヒアリングを行った。また、ポルト工科大学ソーシャル・ビジネス研究センター訪問を経て、生産型協同組合をポルト各地に設立し雇用創出および人材を育成事業を推進している社会的経済専門学校の理事長、フェルナンド・マルチノ氏に対してヒアリングを実施した。さらに、アンダルシア労働者協同組合の連合本部を訪れ、アンダルシア州政府が2011年12月に制定したアンダルシア協同組合法の意義や実際的効果について詳しくヒアリングを行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
理論・歴史的研究については、カトリシズムに引き続き、サン=シモン、フーリエ、プルードンら所謂空想社会主義の議論を「連帯」概念を軸に、現代のエッツィオーニやM.サンデルらのコミュニタリアニズム的正義論等をも引照しつつ、再照射する作業を行う。また『法華経』等から仏教思想の連帯概念も考究するほか、ゲゼル貨幣論を手がかりに自律的経済圏構築を志向する地域通貨・補完通貨の研究や実践についての考究を行う。2001年に初めて開催された世界社会フォーラム以来、社会的・連帯経済の議論は発展し、理論的には地域によってまたディシプリンによって多様な展開が見られる。そこで、バレンシア大学社会的経済学部の広田裕之氏と意見交換しつつ、現在における社会的・連帯経済の世界理論マップの作成を試みる。 実態調査については、スウェーデンを中心に北欧における連帯経済の現況について調査するほか、連帯経済志向の強いポデモスが地方政治の最大勢力となったスペインのカタルーニャ州とバスク州を中心に、連帯経済型政策の動向について調査を行う。また、つとに社会的企業育成法を制定し、社会的・連帯経済の分野でめざましい進歩を遂げつつある韓国に付き金才賢・建国大学校教授へのヒアリングを含めた調査を企画・実施する。 社会実験については、8月に今年4月に発生した熊本地震の被災地に趣き、被災者支援のボランティア活動を実施しつつ、連帯経済型の復興支援策の可能性について、実地調査を行う。また、一定程度の連帯経済型人材の成長と広がりを見極めた上で、京都市内、大原農場、野間地区等において小規模な連帯経済圏を実験的に形成し、とりわけ一般通貨や生活インフラが機能しないことを想定した上でのセーフティネットとして連帯経済の有効性につき、実証のための社会実験を行う。
|
Causes of Carryover |
資料整理等に雇用したアルバイトの作業時間が、年度末までに謝金充当予算を完全消化するには至らず、余剰が生じたものである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に生じた余剰金5088円については、平成28年度のアルバイト謝金として使用する予定である。
|