2016 Fiscal Year Research-status Report
経済思想における社会的価値:19世紀イギリスを中心に
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15K13008
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
柳澤 哲哉 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90239806)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会的価値 / 停止状態 / 功利主義 / 徳倫理 / 低成長 / マルサス / チャーマーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度の研究実績は以下の3点である。 (1)前年度に続きクレマスキ説を手がかりとして、マルサスにおける徳倫理と功利主義との関係から社会的価値の分析を行った。幸福の総量を増大させることを徳の定義としており、マルサスを徳倫理とするクレマスキ説は適切ではない。ただし、日常的に認められている徳を軽視したのではなく、人口原理から導かれる帰結をもって妥当な徳や制度を選別し、根拠付けようとした。したがって、功利主義的な方法で徳の基礎づけを行ったところにマルサスの特徴がある。また、幸福の構成要素の中には生活資料のみならず、家庭の団欒まで含まれていた。それゆえ、経済的価値だけを追求したのではなく、社会的価値も視野に入れていたとすべきであり、とりわけ望ましい家族のあり方を中心として幸福を考察していたことは重要である。この成果の一部は、クレマスキの著書への書評(『マルサス学会年報』27号、2017年3月)に反映させた。 (2)今年度は新たに救貧政策、コミュニティ、家族に関するマルサスとチャーマーズの見解を分析した。チャーマーズは救貧法廃止のためにコミュニティの相互扶助に期待したが、マルサスは個人(家族)の役割を重視する見解を維持し、救貧法に近代的な家族の役割を補助する役割を期待するようになる。この分析を行うために、エディンバラ大学所蔵のチャーマーズ・ペーパーおよびスコットランド・ナショナル・ライブラリのチャーマーズ書簡の調査を行った。 (3)公表にはいたらなかったが、27年度に着手したマルサスを中心とする停止状態論の比較研究の論文化を行った。ここに成果(1)の幸福に関する検討結果の一部も組み込んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
功利主義に対抗して徳倫理を前面に押し出すクレマスキ説を手がかりにすることで、マルサスにおける徳と功利主義の関係や社会的価値の分析を進めることができた。その成果の一部は27年度末に「マルサスの功利主義」として公表したが、さらにクレマスキの著作の書評において検討を加えることができた。また、公表にはいたっていないが、サドラーやマルサスを中心とする停止状態論の系譜についてはほぼ論文化を終えた。また、今年度は、予定どおり社会的価値に関するチャーマーズ、マルサスの文献調査に着手することで、家族やコミュニティに関する価値観を分析する準備を行うことができた。 これらのことからおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は本科研費研究の最終年度であるので、今年度着手した文献調査をもとにして、マルサス、チャーマーズおよび可能であればマカロックの救貧政策を中心に、家族の自立や生活の安定、コミュニティの共助の捉え方などを分析し、研究課題である古典派経済学者の社会的価値を明らかにする。 また、クレマスキを手がかりにしてこれまで進めてきた、マルサスにおける徳と功利主義の関係については断片的な形でしか公表にいたっていない。それをまとまった論文として整理したい。
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Causes of Carryover |
国内旅費が予定より少額だっため前年度未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内旅費および救貧法関連文献、徳倫理関連文献の購入で使用する。
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