2015 Fiscal Year Research-status Report
忘れられた思想家J.M. ロバートソン:ヴィクトリア時代の合理主義的宗教批判
Project/Area Number |
15K13009
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
有江 大介 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (40175980)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リベラリズム / J.M.ロバートソン / 自由思想 / 合理主義 / キリスト教批判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、わが国のヴィクトリア時代研究の弱点である宗教的側面の探求に貢献すること最終的な目的としている。この課題を、合理主義者、自由主義者、反宗教家、社会改良家、ジャーナリストとしての精力的な知的活動とその影響力に比して、現在はイギリスでもほとんど忘れられた存在となった、ヴィクトリア時代後期から20世紀初頭を中心的に幅広く活躍したJ.M.ロバートソン(John M. Robertson: 1856-1933)に着目することで果たそうというものである。具体的には、第一に、とりわけ言及されることの稀な、ロバートソンの宗教批判、キリスト教批判に着目し、それに深く関わる経済まで含めた彼の独特な社会認識のあり方を再発掘する。第二に、そのことを通じて、ヴィクトリア時代の合理主義とリベラリズムの系譜の中にロバートソンを正当に位置づけることでわが国の研究の空白を埋めようというものである。 初年度の平成27年度の研究は、主としてJ.M.ロバートソン自身の主要著作の検討を中心に研究活動を行った。第一に、History of Freethought in the Nineteenth Century (1899) 、Christianity and Mythology (1900)、および A Short History of Freethought Ancient and Modern (1906) などで主張された科学主義的な反宗教論を再構成し、そのことと、Letters on Reasoning (1902)などに示される合理主義的で経験論的な認識論との関連を明らかにしようとした。第二に、以上の過程でブリテン経験論の系譜にロバートソンを位置づけるのに際して、ロック以来のイングランド認識論の展開だけではなく、スコットランド啓蒙におけるヒューム以降の自然主義的、功利主義的宗教批判との関連にも着目すべき事を示した。第三に、その結果、関連科学研究費による別記の研究集会や国際学会において、第二の部分のスコットランド啓蒙に関わるテーマでの報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第一に、上記「研究実績の概要」に記した第三の側面、すなわちスコットランド啓蒙における自然主義的宗教批判の探求とその報告に注力し過ぎた結果、主要な検討対象であるロバートソンの合理主義的宗教批判の再構成への対処が計画より弱くなったことが挙げられる。 第二に、研究代表者の定年退職による名誉教授職への職位の異動に関わる義務的な諸実務によって、物理的に課題研究に充てる時間が予想以上に減殺されたことを挙げねばならない。 その結果、第三に、ロバートソンが主要メンバーであったロンドンのホルボーン地区に所在するThe South Place Ethical Society(2012年にConway Hall Ethical Societyに名称変更)を訪問し、デジタル化されておらずインターネットを通じても見ることの出来ないレベルの資料調査を行うことができなかったことも挙げられる。 なお、以上の3点の理由は、次年度においては大幅に改善されることを述べておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の遅れを取り戻すために、第一に、研究の力点をスコットランド啓蒙から本来の19世紀以降のイングランドにおける合理主義的宗教批判の検討に戻す。具体的には、当該課題の観点からの再構成を目指してロバートソンの主要著作に加えて雑誌や新聞に掲載された論評、上記Conway Hall Ethical Society に赴いてのuncatalogued documents などの検討と調査に注力する計画である。 第二に、本年7月に開催される国際功利主義学会第14回大会(フランス・リールカトリック大学:7月6日-8日)において、イングランドにおける合理主義的宗教批判に関するJ.S.ミルの宗教論について報告し、その中でロバートソンの立場との対比を行うなど、当該課題研究の本格化を目指す。 第三に、初年度には不十分であった連携研究者の協力を得て、ロバートソンを取り巻くJ.A.ホブスン他の世紀転換期の社会経済的な時代把握のあり方へと本課題研究の視野を広げることを目指す。 以上が第2年度の研究の推進方策である。
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Causes of Carryover |
第一に、初年度は研究実績の項目に記したように、主として既存ないし所蔵しているロバートソンの代表的文献の利用が中心となったのと、ロバートソンに系譜づけられるブリテンの知的伝統、とりわけヒューム以降のスコットランド啓蒙における宗教批判の言説を同じく既存の文献において追跡することになったため、文献購入、資料調査での基金の利用額が事前の想定を大きく下回り繰り越すこととなった。 第二に、代表者の定年最後の年度のため、退職や名誉教授への職位変更に伴う実務的な用務が重なり研究課題への取り組み時間が予想ほど十分に取れなかったことも、基金の次年度への繰り越しの理由の一端である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2年目の平成28年度は、名誉教授への職位変更により課題研究への従事時間が大幅に増えることから、ロバートソン以前の系譜的検討からロバートソン自身の諸著作や記事の検討に注力することとする。そのためには、少ないとは言えロバートソンの合理主義的宗教批判とその社会経済的視点についての先行研究と現在の研究のサーベイと、現地(ロンドン)での直接的な資料調査が必要であり、前年度からの繰り越し部分を利用してこれらの実現を図る予定である。 また、連携研究者や関連分野研究者との協力の場を作り、前年度には扱えなかったJ.A.ホブスンほかのロバートソン周辺の知的状況についての検討を行うなど、こうした面での経費利用の機会が多くなる予定である。
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