2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K13016
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野 善康 大阪大学, 社会経済研究所, 特任教授(常勤) (70130763)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 長期不況 / 総需要不足 / 財政政策 / 資産選好 / 人口減少 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本は長期の総需要不足に直面し、国内需要が長年停滞して回復の見込みがないため、海外需要に頼ろうとしている。そのとき、海外需要を引き上げる大きな要因として、外国の経済規模の拡大がある。29年度は、2国間の相対的人口規模の変化に注目し、外国の人口規模が増大して潜在的な輸出需要が拡大する場合の、自国の消費、雇用、景気などへの影響を調べた。 その結果は、景気の状況に応じて非常に異なることがわかってきた。自国が好況で完全雇用であれば、外国の人口拡大によって外国財の価格が下がり、自国は有利な交易条件で自国製品を外国製品と交換できるために、自国は消費を増やすことができる。しかし、不況で失業が発生する状況であれば、外国の人口増加による外国製品の価格低下は、自国製品の国際価格競争力を引き下げるため、失業が悪化して消費が下がり、景気後退を招く。さらに、当初には完全雇用が成立していて、外国の人口増大が自国の消費を増やす状況にあっても、それが続くと自国内の完全雇用を維持するために必要な消費の量が上昇し、ついには消費不足が起こって不況状況に陥ることも示された。 さらに、これらの性質は、外国の人口増加の場合だけでなく、自国の人口減少の場合にも同様に成り立つことがわかった。 現在の日本は長期間の需要不足と人口減少に悩み、国内需要が増えないことから、海外需要に頼ろうとしている。本研究は、このような日本の姿勢の是非を動学的長期不況理論の見地から分析するものであり、政策的な意味からも日本経済の分析という視点からも、重要であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、主に消費への選好と比較した資産保有への選好の程度、市場における価格・賃金調整の不完全性、およびマクロ経済政策に注目し、それらの変化が一方の国で起こった場合に、景気状況の異なる2国間で、これらが消費や雇用、所得などの景気指標にどのように波及するかについて、多面的に分析するのが目的であった。 これらについては、順調に結果が得られ、順次、ディスカッション・ペーパーや学術誌にも発表しているところであるが、それに加えて、各国の需要に影響を与える要素として、人口規模の変化による相対的経済規模の変化などにも広がっている。それに加えて、30年度は、人口規模の変化が各国の生産パターンに与える影響や、それを通した景気への影響にも分析を加える。さらに、新たな需要創出策として、需要対象を自国民と外国人とで明確に区別した新製品開発による各国景気への影響、にまで広げようと思っている。 このように、当初の研究計画では想定していなかった要素にまで分析が広がりを見せており、29年度から30年度への延長申請も、それが理由であった。以上から、当初計画より進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度は、29年度に始めた人口規模の変化が景気に与える影響についての分析を、生産パターンの変化とそれを通した景気への影響についても推し進める。 さらに、長期の需要不足を克服するための方策のひとつとして、新たに、新製品の開発も考えられる。また、そのさいの需要対象として、国内消費者と海外消費者があり、前者は国内需要、後者は輸出需要を刺激すると期待される。そのため、それぞれの景気状況が異なり、いろいろな組み合わせになる2国モデルを使い、自国が国内向けあるいは外国向けの新規需要を生み出す新製品開発を行う場合の、各国の消費や雇用などに与える効果について理論的に分析する。 そのためには、まず、新製品の導入が家計の効用に与える影響を分析する枠組みを構築し、それが資産選好と比較した相対的な消費への選好に与える影響を探る必要がある。さらに、それを通して総消費に与える影響を分析するさいには、自国と外国での景気状況のいろいろな組み合わせに応じて異なってくると予想される。これに関して、従来の完全雇用を前提とするモデルでは、一国の生産性の上昇は、自国にも外国にもよい影響があることがわかっている。本研究は、生産性の上昇ではなく、製品の種類の拡大を考えている。そのため、ベンチマークとして完全雇用を前提に、それが、従来分析されてきた生産性上昇による価格低下を通した消費への効果と同様の効果を持つかどうかを調べる。 また、本研究のこれまでの成果から、景気状況の違いによって、外生的な需要拡大の効果が大きく異なることがわかっている。そのため、不況で失業がある場合の新製品開発による需要創出が、完全雇用の場合とどのように違うかにも注目して、分析を進める。
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Causes of Carryover |
好況国と不況国との景気の相互作用を分析する本研究の当初計画については、ほぼ結果が得られたが、研究遂行の段階で、さらなる発展のアイデアを思いつき、その部分の理論分析を完成することにより、当初の目的がさらに完全な形で実現される見通しであるため、本研究を30年度にまで延長することにした。具体的には、外国の人口規模の変化が生産パターンに与える影響とそれを通した景気への効果を分析する。さらに、需要創出策として、新たに新製品開発を考え、それが各国の消費意欲を刺激することを通して景気に与える影響を探る。 予算の使用については、主に、研究打合せのための国内出張旅費、消耗品費などに使用する予定である。
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Research Products
(5 results)