2015 Fiscal Year Research-status Report
個別産業分野の変動における固有振動成分の存在とその抽出の研究
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15K13019
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鳥居 昭夫 中央大学, 経済学部, 教授 (40164066)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 経済循環 / 景気変動 / 取引ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、個別市場における生産活動等の変動において固有振動が存在し得ることを、モデル分析によって理論的に説明し、さらに、それら固有振動と考えられる成分を、特定市場において観測されたミクロ・データから抽出する方法を考案し、実際に抽出を試みることを目的とする。具体的には、①固有振動が存在することを説明する理論モデルの構築、②固有振動の特性の、特に企業間関係のネットワークとしての特性との関係における分析、③何らかの特定の産業における個別企業データを用いた固有振動成分の抽出、およびよりマクロの経済指標への反映の計量的同定を試みる。これらの成果により、集計されたノイズの強いデータによらず、より確度の高い個別企業のデータを用いて、諸循環や市場の変動を論じることを可能とするための基礎的理論を与えることができる。さらに、市場の変動のうち、構造的な部分をより正確に把握することができることによって、産業政策等の効果確認や、安定化のための政策的インプリケーションを得ることができる。 これまで個別産業における生産水準等の周期的変動は系統的に分析されたことはない。DSGE モデル等においてもマクロで集計された変数が、変動値の確率分布として分析されるのみである。本研究では、個別産業分野のレベルにおいても定常的周期を持つ循環が存在するのではないかと予測し、推計を試みる。第1に、個別分野の生産水準等変数において固有振動が存在し得ることを、ネットワーク・モデル分析によって説明し、第2に、固有振動成分を観測された市場のミクロ・データから抽出する方法を考案し、実際に抽出を試み、第3に、複数産業にまたがる固有振動の発生を分析するための方法論的準備を行うことを目的とする。この成果により、ネットワーク型経済に発生する循環に対する理解を深め、生産性効率性の変化をより詳細に分析できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度に予定されたのは、需要において一時的変動が生じた場合、およびコストにおいて予期しない変動が生じた場合、その変動が取引関係にどのように伝達されるかを解析するための在庫・取引モデルの作成し、さらに固有振動が存在するネットワークの条件、および擾乱の発生条件をシミュレーション分析することである。あわせて実証分析の対象とするデータを得る産業ないしは企業の探索を行うことを目標としていた。本研究計画の最終的な目標は28年度に予定されたマイクロデータを用いての実証分析であり、この目的のためのデータ購入に予算の大部分を費やす予定であったが、実際の配分予算に対応し、またデータの入手先との調整もあり、両年度分の予算を合わせて使用する必要が生じた。そのため、27年度においては予算を極力使用せず繰り越して、理論分析に集中し28年度に備えた。 理論分析で得られた主な成果は、第1に、事業所等の経済主体の不確実性対処において通常行われている、需要変動の分布関数を推定し、その与えられたリスクの範囲内での、不確実性対処ではなく、分布関数全体がシフトする可能性を持つ場合の最適対応モデルの構築である。最適対応にはいくつか可能性があるが、閾値の設定、および、意思決定の先送りというパターンの存在を理論的に示すことができるモデルを作成した。現在論文化をはかっているところである。第2に、理論モデルに基づいた、シミュレーション分析を行い、識別のための周期的成果の同定方法を考察することである。この部分について、プログラムを作成し、シミュレーションを進める環境を構築した。また、パラメータに依存する特徴あるパターンを認識することができることが確認されている。第3に、企業間関係のネットワークを指標化する方法について、既存の指標の提案を試し、その有用性を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、進捗の項で説明したとおり、理論モデルにおいては骨子が完成しており、シミュレーションの繰り返しにより生じるパターンの識別する方法も完成に近いので、これらの論文化をはかる。第2に、データの入手について仕様の確定と発注を早々に行い、原データを加工してデータベースとして利用できるよう整備する。第3に、このデータベースをもとに、理論・シミュレーションで得られた予測パターンを確認する計量分析を開始する。あわせて、取引関係データから得られた相関のネットを指標化したパターンとの相関を検証する。この指標化の方法は、多くの方法が既に提案されているので、逐次繰り返して予想される関係を同定できるまで繰り返す必要がある。この課程は、特定のスクリプトをプログラムし、極力自動化することを考える。 最大の課題は時間スケールの特定である。得られるデータの時間スケールは早い段階で特定してしまわざるを得ず、後段で調整することは難しい。これを制約として計量分析を行うために、必ずしも予想した結果が得られるわけではないことを考慮しなければならない。この場合、理論モデルに立ち返ってシミュレーションをし直す必要がある。利用できるデータ内での分析を、可能な限りこの繰り返しにより求めなければならない。また、現在は、特定の小規模産業を対象に計量分析を進める予定であるが、予想されるパターンを同定した段階で時間が許す限り、よりマクロな対象、すなわちおもに産業連関表を用いた分析に、計量分析を拡張する方法を考える。
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Causes of Carryover |
27年度に予定されたのは、理論モデル構築と、シミュレーション分析である。あわせて、必要な機器の整備と実証分析の対象とするデータを得る産業ないしは企業の探索を行うことを目標としていた。本研究計画の最終的な目標は28年度に予定されたマイクロデータを用いての実証分析であり、この目的のためのデータ購入に予算の大部分を費やす予定であった。しかし、実際の配分予算に対応する必要と、またデータの入手先との調整もあり、総合計予算の範囲内で目的を達成するためには、両年度分の予算を合わせてデータ整備に使用するよう計画を修正する必要が生じた。そのため、27年度においては理論分析等、また機器等の整備には予算を極力使用せず繰り越しして、28年度の使用に備えることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データの入手について仕様の最終的な確定と発注を早々に行い、原データを加工してデータベースとして利用できるよう整備する。既に、発注予定先と連絡をとり、必要な申請等を行っている。繰り越し分はこの主にこの目的のために使用する。データベースをもとに、理論・シミュレーションで得られた予測パターンを確認する計量分析を開始することができる。
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