2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K13020
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
齋藤 哲哉 日本大学, 経済学部, 准教授 (80707422)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 靖彦 日本大学, 経済学部, 准教授 (90453977)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 暗号通貨 / 電子決済 / 複数通貨体制 / デジタルエコノミー / 国際通貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、当初の計画通り、理論分析と実証分析を中心に研究を進めた。理論分析に関しては、交渉理論をベースにしたモデルを考え、それぞれの国におけるビットコインのシェアの潜在性をシミュレートしたものである。これは、富山大学経済学部主催のワークショップ、明治大学での2015 September Conferenceで報告した。CARA型効用関数を用いた分析は、現在私がGuest Editorになって編集しているジャーナル(International Journal of the Innovation and Digital Economy, IGI)の暗号通貨の特集号に掲載する予定にしている。そして、実証分析は600以上存在が確認されているビットコイン以外の暗号通貨(オルトコイン)の外為市場での振る舞いを時系列分析したものである。結果の概要は、マイナーなコインはビットコインと代替的に価格が動き、そうでないコインは一貫してビットコインとは無関係で、ユーロと補完的、中国元と代替的に動くと言うことが判明した。これは、WEAIのSingapore Conferenceとキプロス大学、中南財経政法大学のワークショップで報告し、現在は投稿に向けて作業中である。 また、論文の執筆の他に、キプロス大学に4週間の間、客員研究者として滞在することにより、キプロス危機前後のキプロス国内におけるビットコインの状況について知ることが出来た。更に、キプロスにあるニコシア大学における電子通貨に特化した修士プログラムと、ニコシア大学におけるビットコインによる学費支払いの現状に関してインタビューすることが出来た。インタビューの結果は早々にまとめる予定にしている。 その他の成果として、以前にレビューを頼まれたTeathered Moneyという暗号通貨の書籍の翻訳依頼を受け、現在、9月の出版に向けて作業を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画として、理論的基礎の枠組みと、公開データを用いた実証分析、海外の状況の視察等による現状把握を主眼としていた。また、書籍の翻訳は付随的な結果ではあるが、本研究課題での研究活動が基礎となっていると言える。理論・実証分析と海外の状況把握は今後も引き続き行う予定であるが、1年目の進捗としては、想定した範囲のものであると考えている。 また、実際の経済の中で、暗号通貨が存在すると言うことは、一国内での複数通貨体制を認めると言うことになる。そして、暗号通貨はそのまま国際通貨にもなり得る。その結果、金融危機においてそのプレゼンスが増すという事象(キプロスの金融危機)も過去に観測された。初年度の後半から、このような事実に基づき、金融危機と通貨選択という観点から、実験的検証の準備を行ってきた。これも当初の計画通りで有り、次年度から実際に実験を実施する計画にしている。 この経済実験に関しては、当初は日本大学経済学部にラボを開設しようと試みてきたが、研究協力者にもなっている小林創の手引きも有り、関西大学で主に実験を行うことになった。関連した研究資金も獲得できたことから、次年度以降予定していた経済学実験の計画は大幅に進捗すると予想される。 しかし、当初計画していたカンファレンスの開催がまだ行われていない。これは、暗号通貨の研究が、工学系と法律・行政の研究者や実務家が主体になって行われていることに起因する。同様の傾向は海外でも見ることが出来、同じ経済学分野の研究者のネットワークの構築は出来つつあるが、カンファレンスの開催には至っていない。しかし、先にも述べた通り、ゲストエディターとして、査読月の専門誌に特集号を持つことが出来たのは、一つの進展であると考えている。 以上の諸事実を考え、概ね順調に研究が進展していると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
【理論研究】現在行っている交渉理論をベースにした研究を、CRRA型選好で行うこと、さらに、Friedman-Savage型の危険回避選好が資産額によって変化するという要素を取り入れた分析に拡張する。また、暗号通貨の価格の決まり方に関しての新たな研究を開始し、暗号通貨の決済プロトコルとしての要素を前面に出したモデルを構築したいと考えている。この中で、現在実際に問題になっている、ブロックチェーンのサイズの問題を考え、偽造を防ぐメカニズムを、伝統的通貨と比べながらモデル化し、暗号通貨の経済学的基礎の確立を目指す。 【実証分析】初年度行った時系列分析を引き継ぎ、ビットコインやその他の暗号通貨(オルトコイン)を、国際金融市場の枠組みで捉え、その値動きの特性の分析を進める。さらに、度々バブルと言われる暗号通貨の価格に関して、合理的な基礎を理論的に導出し、その理論に基づいた実証分析を行い、バブルでは無いことを示す。また、暗号通貨ユーザーの社会的属性に関する調査を行い、その特性を分析する。 【経済実験】次年度より、複数通貨体制下の通貨選択の問題や、金融危機下での資産保全、通貨攻撃という既存の枠組みを基にして経済実験を行い、どのタイミングでビットコインのような暗号通貨がもてはやされるのか、または、捨てられるのかを管理された環境で実験し、これまでに観測された事実や理論と照らし合わせ、研究成果とすることを目指す。この実験プロジェクトは、米国リーハイ大学のErnest Lai氏との共同研究として推進することになった。 【成果発信】執筆した論文を様々な場所で報告し、適当なタイミングで査読月の専門誌に投稿する。また、現在行っている翻訳本の出版を成功させ、少しでも正しい暗号通貨の知識の普及に勤める。そして、最終年度までに、暗号通貨の経済学をまとめた書籍を出版できるように進める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額の発生は5,587円であり、書籍や消耗品の購入等で年度末に調整せず、必要な経費を適正に支出した結果である。この額は、予算の誤差の範囲内であると考えている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度において、必要な経費として、適正に支出する予定である。
|
Research Products
(6 results)