2016 Fiscal Year Research-status Report
働く世代のがん患者が抱える社会的問題の評価尺度とスクリーニングによる介入法の開発
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15K13100
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Research Institution | Kanazawa Medical University |
Principal Investigator |
久村 和穂 (石川和穂) 金沢医科大学, 医学部, 助教 (00326993)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
元雄 良治 金沢医科大学, 医学部, 教授 (80210095)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | がん患者 / 社会的問題 / 生活の質 / ソーシャルワーク / スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
働く世代のがん患者が経験する社会的問題に関する実態調査、および、評価尺度の開発を行った。稼働年齢(20-64歳)の通院中のがん患者16名を対象に半構造化面接によるインタビュー調査を実施した。尺度の内容的妥当性を確保するため、質的データの分析に基づき、がん医療に携わる多職種で構成された専門家パネルで検討を重ね21項目の仮評価尺度を作成した。これを用いて直近1年間にがんの治療や検査のために医療機関を受診したがん患者を対象としたインターネット調査を実施し、804名から有効回答を得た。 稼働年齢のがん患者の39.5%は21項目中1項目以上で深刻な社会的問題を経験していた。患者の年代別の特徴を分析したところ、全ての項目について低年齢である程、深刻な問題を経験している割合が高く、問題の内容も20-39歳群、40-64歳群、65歳以上群の3群で異なっていた。治療経過による変化を分析したところ、社会的問題は診断時・再発時に深刻化する他、通院中も継続していることが示唆された。社会的問題の深刻度には、抑うつ状態、PS、再発の有無、年齢、教育歴が寄与し、特に1週間以内に深刻な社会的問題を経験した患者の66.7%は抑うつ状態にあり、外来で継続的に身体・心理・社会面から包括的評価と支援を実施することの妥当性が示唆された。 本尺度の標準化にあたり、項目分析(欠損頻度、是認率、I-T相関、天井・フロア効果とヒストグラム分析)により14項目を選択した。因子分析の結果、一因子構造であることを確認し、がん患者用QOL尺度(FACIT-Sp)の5つの下位尺度、および、つらさと支障の寒暖計との相関関係から収束的妥当性を確認した。尺度の信頼性については十分な内的整合性があること、また、1ヵ月後に実施した再テストの結果との比較から一定の再現性があることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
稼働年齢のがん患者の社会的問題の評価尺度を作成するにあたりインターネット調査を実施した。本調査から稼動年齢のがん患者が経験する社会的問題の実態について以下の点が明らかになった。①20-39歳はがん治療による生殖機能への影響、交際・結婚に関する問題、社会的孤立といった世代特有の問題を経験している、②リハビリや体力作りに関するニーズが比較的多い、③1週間以内に深刻な社会的問題を経験している患者の66.7%が抑うつ状態にある可能性がある。 今回開発した評価尺度をスクリーニング・ツールとして使用して通院患者の社会的問題を同定することは可能だが、それらの問題に対する有効な支援体制が当院内においても当該地域においても未整備であるという課題が明確になった。海外の先行研究によれば、単に心理社会的問題のスクリーニングを行うだけでは患者の生活の質は改善せず、スクリーニング後の適切な専門職や社会資源への照会やフォローアップ等の支援を確実に行う必要があることが報告されている。 よって、社会的問題をスクリーニングした後の支援内容・方法に関するアルゴリズムの作成にあたり、以下の点について新たな情報収集および支援方法を検討し開発する必要があった。第一に、がん患者の生殖機能の温存に関する適切な情報提供や相談支援について検討するため、厚生労働科学研究推進事業主催のがん生殖医療の地域連携および心理支援体制の構築に関する会議や国立がん研究センター主催の若年がん患者の妊よう性温存に関する相談支援研修会に参加し情報収集を行った。第二に、通院中のがん患者へのリハビリテーションの適用、および、当該地域のがん患者が利用可能な体力作りプログラムに関する情報収集を行った。第三に、若年がん患者にとって利用しやすい精神心理的支援の提供方法を検討し、孤立感を軽減するための若年期・壮年期のがん患者を対象としたサポートグループを試行した。
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Strategy for Future Research Activity |
今回標準化した評価尺度によるスクリーニング実施後の適切な情報提供、および、社会資源への照会を行うための支援アルゴリズム(初版)を作成する。倫理審査委員会からの承認が得られ次第、通院中の稼働年齢のがん患者を対象に本評価尺度を用いた社会的問題のスクリーニング、および、その結果に基づく支援的介入プログラムを開始する。まずは本プログラムの実施可能性および初期の有効性を検証するため、当院通院中の20-64歳のがん患者20名を対象に単アームのFeasibility studyを実施する。スクリーニング時の社会的問題尺度総得点、がん患者用生活の質(EORTC-QLQ-C30)、および、就業状況をベースライン(T1)とし、三ヵ月後(T2)に再度これらを測定する。本プログラムの実施可能性は、スクリーニング参加率および三ヵ月後のフォローアップ参加率で評価し、前者50%以上かつ後者80%以上を実施可能性は良好であると判断する。Feasibility study実施中に必要に応じて専門家パネルと検討し支援アルゴリズムを改訂していく。本プログラムの実施可能性および初期の有効性を確認した後、非盲検ランダム化比較試験を開始する。
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Causes of Carryover |
洋書を購入する予定だったが残金が足りなかったため、次年度の予算で購入することとしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
参考文献の購入費として使用する予定である。
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Research Products
(8 results)