2017 Fiscal Year Research-status Report
集団心の可能性・妥当性・限界:機能主義的視点からのアプローチ
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15K13112
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
唐沢 かおり 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50249348)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 裕幸 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (50243449)
戸田山 和久 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (90217513)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 集団心 / 心の知覚 / 集団実体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年とは次の2点に関する検討を行った。 1)集団心の認知、集団への道徳的判断の関係の検討:これまでの検討により、集団心の知覚が集団実体性や凝集性の認知に影響されることが示唆される。この知見を踏まえ、集団心と道徳的判断との関係をさらに明らかにするための実験的検討を行った。具体的には、多様な組織や集団を対象とした調査と企業組織の不祥事場面での反応に関する実験である。そのなかで集団とそこに所属するメンバーの心の知覚のトレードオフ関係、また心の知覚がそれぞれに対する道徳的判断(責任帰属や処罰意図)に与える影響を検討した。心の知覚のトレードオフ関係については、一部の集団において、①実体性が高いほど関係の知覚が弱くなること ②集団実体性が高い場合には、集団だけではなく所属メンバーにもより大きな責任が帰属されることが示された。これらの関係は当初の予測とは異なっており、またそれが安定した結果であるかどうか、質問項目の改変も行いながら再検討が必要である。 2)他者の態度推論が自らの判断に与える影響:他者の態度推論は自らの態度や行動に影響する。このことは従来の枠組みでは規範的影響という概念を持ちいて検討されてきたが、内集団の「心」の推論の影響という視座からも分析可能である。この点を踏まえ、他者の心的状態(態度)を内集団の「心」として認知し、それが他メンバーの行動に影響するという素朴理解過程に焦点を当て、自らの判断との関係を以下の3点から検討した。①同じ言語と概念理解を共有する文化としての集団を対象とした素朴理解の共有への影響、②企業組織におけるチーム学習活動や企業内福祉制度の利用への影響、③内集団における他者の態度推論と、裁判員制度の理解や認知の相互影響過程が参加意図に与える影響。その結果、上記1)と同様、対象とする集団や判断領域により関係が異なることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
集団心概念の機能的有効性が道徳的判断場面にあることがこれまでの研究から示唆されるが、一方で、集団心の認知と判断との関係を精緻に検討することが課題となっている。その際、個人の心の知覚を把握する項目の流用では、様々な集団に有効で汎用性のある集団心知覚を把握する項目を構成することが難しいことが明らかとなり、測定項目の改変が必要である。対象とする集団や判断領域により実証データが示す結果が異なっているという現状を再検討し、結果を統合的に解釈し、一貫した知見に結びつけるための研究計画の訂正に時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
集団や組織の特性、参照する機能ごとに異なる観点から集団心知覚を把握することが必要である可能性を踏まえて、調査項目の改変、データ収集、分析に取り組む。また、これまでの知見について、学会ワークショップなどの機会における発表を行い、批判的な検討を進め、最終成果として明確に示すことができる知見を整理し、今後の課題を切り分けていくための議論を進める。
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Causes of Carryover |
集団心の機能を実験的に明らかにするための実験を実施し、データ収集と分析を進めたが、その過程で一部の質問項目や行動指標が不適切であることが判明し、実験内容を改変してデータ収集を行う必要が生じた。加えて当該実験は学生以外の成人サンプルにも実施することが望ましいと考えているが、参加者確保に想定以上の時間を要し、計画の遂行が遅延した。 次年度の使用計画は主に次の二つである。1)上記の問題に対応するための改変を行い実験を遂行すると共に、ネット調査の可能性も検討しつつ、データ収集を進めていくので、そのために必要な支出として、参加者謝金、ネット調査委託費。2)学会等のワークショップ、研究会など、これまでの知見について、関連領域の研究者から批判的な検討を受ける活動に関わる旅費や謝金。
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