2016 Fiscal Year Research-status Report
グローバリゼーション時代における新しい心理学史の叙述
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15K13135
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 達哉 立命館大学, 総合心理学部, 教授 (90215806)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 心理学史 / 土着的心理学 / 女性心理学者 / グローバリゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
国際心理学会(ICP)を日本で開催するにあたって日本心理学会の英文機関誌『Japanese Psychological Research』の心理学史特集号を編集し刊行した(58巻SP1号;2016年6月)。筆者は全論文に目を通し、日本の心理学の到達点を心理学史的に検討して世界に発信する役割を果たした。日本心理学史は「東洋=非西洋」であり「近代化した工業国」における心理学のあり方を示すものである。 心理学からみた臨床心理学史の叙述は、国家資格(公認心理師)制度が始まることもあって完成を急ぎ、一次稿を完成させた。2017年度中の発刊を目指しており、必要な修正はゲラで行う。日本の心理学が第二次世界大戦以降アメリカ心理学に強く影響されていたためそのバイアスを相対化することが必要であり、思いのほか時間が掛かった。 アメリカ心理学会(APA)第32部門のインディジニアス(土着的)心理学(Indigenous Psychology)部会の活動指針の検討を通じて、「土着的心理学」概念について理解を深めた。それぞれの国や文化に内在する心や魂についての理論を近代心理学に取り入れる「土着概念の心理学化」と近代心理学が持っている心や魂についての理論を直輸入的に取り入れてそれぞれの国や文化に普及させる「近代心理学の土着化」という二方向の活動について明確に分離してそれぞれの国の心理学史を検討することが、心理学の地球規模化(グローバリゼーション)を分析する際に有効であることが明確になってきた。次年度は土着化の二方向の概念を心理学の地球規模化(グローバリゼーション)の観点から検討しつつ、グローバリゼーション時代の心理学史について叙述する基盤を作っていく。 また、心理学史上の女性心理学者の活躍に焦点をあてた『心理学ワールド』の歴史エッセイに「心理学史の中の女性たち」というシリーズを立ち上げ、執筆・刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度はJPRの特集号を編集し自らも論文を公刊したこと、英文の編著書を刊行したことなど、一定の成果をあげることができた。 また、土着的心理学の2つの類型についての理解を深め、心理学の地球規模化とそれぞれの国や地域の土着的心理学思想の関係を整理することができた。 さらに、ラジ著『近代科学のリロケーション』高林著『精神医療、脱施設化の起源』などにより、心理学史の根幹となる科学社会学的な理論を取り入れることができた。 ただし、イスラム圏の心理学について、あまり検討ができず、臨床心理学史についても年度内の成書完成ができなかったことは問題点であり、改善が望まれる(臨床心理学史は2017年度の5月末に脱稿し、年度内に刊行の予定である)。
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Strategy for Future Research Activity |
アジア、南米、北欧等、近代心理学の中心地ではない地域における心理学の展開について、文献的に調査し、可能であれば実際に赴いて調査を行う。 近代心理学と、それぞれの国や地域における土着的思想の影響関係について、(1)近代心理学の土着化と(2)土着的心理思想の近代心理学化という二方向の影響過程を分けて考察すべきだというJahoda, G.の議論を参照し、様々な国や地域における(1)近代心理学の受容過程の歴史と(2)受容過程における土着思想の役割(促進・抵抗等)の歴史について考察する。また、これらの過程を土着化ではなく地球規模化(グローバリゼーション)の観点から検討することで、地球規模で展開する心理学の歴史を捉える視角を整備していく。
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Causes of Carryover |
心理学史の調査が十全に行えなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
可能であれば、南米の国(ブラジル等)を訪問し、心理学史の展開について調査を行う。
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Research Products
(2 results)