2016 Fiscal Year Research-status Report
戦後沖縄児童文化に南洋が与えた影響-儀間比呂志のライフサイクルと仕事を通して-
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15K13186
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Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
斎木 喜美子 福山市立大学, 教育学部, 教授 (30387633)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
喜久山 悟 熊本大学, 教育学部, 教授 (50273876)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教育史 / 児童文学 / 絵本 / 美術 / 儀間比呂志 |
Outline of Annual Research Achievements |
教育・文化史研究において、戦前の南洋と日本の関わりは南進論の文脈の中で語られることが多く、実際に南洋を舞台にした教材や当時の児童文学作品は批判的に論じられてきた。概ねその方向性には賛同する立場をとるが、その一方で筆者は戦前の南洋と日本の文化的関わりは南進論だけで一括りにできるものではなく、もっと多様で豊かな文化継承があったと考えている。とりわけ戦後文化の復興と発展に、外地からの引揚者の影響が強かった沖縄の事例を通してその仮説を検証したいと考えてきた。 そこで本研究では、戦前南洋に生活の拠点を持ち、南洋の文化を芸術表現の糧として取り込んで戦後の児童文学創作に引き継いでいった「儀間比呂志の絵本の仕事」に着目した。 本研究の目的は①儀間絵本の表現に現れた南洋文化の影響、郷土性と子どもへのまなざし、作品の主題や思想を明らかにすること、②儀間のライフサイクルと作品分析を統合し、戦前の南洋文化受容を背景とした戦後沖縄の児童文学の系譜、教育との関わりを明らかにすることを通して、戦前の南洋から継承してきた文化の再評価を行うことである。 今年度は、南洋群島から沖縄へという視点を持っていた芸術家として儀間比呂志のほかに丸木俊に注目し、先行研究の検討を行ってきた。また、戦前南洋群島で創作活動を行っていた芸術家で、儀間比呂志にも影響を与えた土方久功や杉浦佐助らの仕事と生涯について文献調査を進めてきた。現在、儀間比呂志絵本の書誌作成と絵本作品の主題、思想分析についてはほぼ終了しつつある段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の研究準備期において収集した資料によって、西洋芸術、とりわけ絵画表現の特変遷と日本への受容過程については理解を深めることができた。また、南洋に渡った美術家たちの作品の特徴やライフサイクルについても調査を進めることができた。しかし、当初から予定していた儀間比呂志への聞き取り調査は、儀間の体調が思わしくないことから計画通りに進めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度である次年度は、これまでの成果に加えて「戦前の南洋社会と沖縄人」「南洋の芸術表現の特質」「南洋を経験した芸術家たちの表現」「儀間比呂志の南洋体験の意味と作品の主題・思想」という研究課題に焦点化して研究を進め、戦前の南洋文化の価値、継承の意味についてまとめていきたい。 儀間比呂志本人への聞き取り調査は、ご逝去によりかなわなくなったため、取材メモや取材写真、所蔵書籍等の調査を検討したい。また、儀間が南洋で過ごした当時の南洋統治領の政策や沖縄人社会の実態についての調査を行うことで、聞き取り調査の代替とし、研究を深化させていきたい。
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Causes of Carryover |
儀間比呂志への聞き取り調査と作品調査を行う予定であったが、昨年度に引き続き今年度もご本人の体調がすぐれなかたっために実施がかなわなかった。また、別課題で取り組んできた沖縄研究の研究成果をまとめ、発行するための準備に予想外の時間がかかってしまい、本研究に時間を十分に確保することが難しい事情があった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
南洋に渡った芸術家たちの作品や思想的背景について調査する中で、当時の南洋統治政策と現地の機運、教育状況等、文化的背景についてもさらに調査を進め、考察を深める必要性を痛感している。次年度は本研究の成果をまとめる一年になるので、文献史料の収集と調査活動を積極的に行うとともに、研究分担者との合同研究会開催の頻度を増やし論文執筆につなげたい。そのための調査旅費、文献収集費用として使用していく予定である。
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