2016 Fiscal Year Research-status Report
21世紀の教育を考える:親になったデジタル世代の未来社会イメージと教育戦略
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15K13214
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Research Institution | Okazaki Women's University |
Principal Investigator |
白石 さや 岡崎女子大学, 子ども教育学部, 教授 (70288679)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | デジタル世代 / シリコンバレー / k-12教育システム / プラットフォーム / STEM / スタンフォード大学 / 近代的子ども観 / イノベーション・コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き、ワクワクするような調査研究成果を得ている。 1)今年度は、直接の対象者であるデジタル世代の親子から少し離れ、サンフランシスコ・シリコンバレー周辺での幼稚園や保育園の調査にとりかかった。具体的には、シリコンバレー界隈での3~5歳児教育の最高峰と目されている幼稚園と、より一般的な幼稚園とを訪問した。概要を述べると、前者は「子どもは50年前も、今も、50年後も変わらない』(園長)という言葉に表されるように、堂々とした近代的子ども観に沿った、IT機器には目もくれない古典的な幼児教育を行っており、空間的にもゆったりと恵まれた環境で、子ども達はのびのびと過ごしていた。後者の方は、最新の米国でのキャッチワードであるSTEM (science/technology/engineering/mathematics) 教育を標榜しており、保護者も休日には子どもを科学博物館に連れて行くなど熱心である。 2)そうした既存の組織による保守や革新の動きとは別個に、ICT産業の成長を担ってきたデジタル世代自身が、自分の子どもを教育するために、全く新規な幼児教育システムを、ゼロから設立させようとする動きも活発である。自分たちがICT産業の分野で開発してきたプラットフォーム様式を教育領域にも導入し、前例にとらわれない種々のアイデアによる個々の教育プログラムを、解放された情報共有機構によって、多くの人々が自由に提案しあい、それをまた自由に採用・試行し、有望なアイデアだと思われるものはカリキュラム化して、広く教育マーケットに売り出そうとするものである。 3)さらにシリコンバレーには、子どもが100名もいれば、国籍は40を越えるという多文化社会が現出しており、そこでは我が子の文化的アイデンティティを重視した幼稚園選びもローカルな特色として始まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究内容は、期待していた以上の成果を得ていると思う。 しかし、当初に企画した調査研究プログラムの進捗状況としてみると、計画通りには消化されていない。 1)企画では、2年度以降は欧州やアジア諸地域も調査対象地としていたが、現実には米国西海岸が手一杯で、他の地域には手がまわりかねている。これは、本研究企画立案において私が注目をした『親になったデジタル世代』による、我が子の教育に関する関心情熱が予想を遥かに越える高いレベルであり、1~2回の訪問調査では追いつかない実態が、生起しているからである。特にシリコンバレー周辺においては、若きIT億万長者たちが、何よりも大切な宝物である我が子のために、湯水のごとく資金を注ぎ込んで、新時代におけるThe Right StartとしてのK-12 教育システム創成にしのぎを削っている。 2)ICT諸技術やシステムに長けた彼らは、技術者の目線で、これまでの近代的子ども観に裏打ちされた教育とは全く異なる、新しい「学校」を生み出している。こうした「学校」では、実際に子どもに接する教師達よりも、その教師を支援して教育用プラットフォームをデザインし、維持し、これを作り替える役割を担うIT技術者の数のほうが多い。それは彼らが教育システム開発を新たなビジネス機会としてみていることにもよる。彼らにとり、教育は技術開発であり、投資活動でもある。 3)さらに、文化人類学を専門とする研究者として、このサンフランシスコ・シリコンバレーというイノベーション中枢地域において、文化や宗教活動の活性化がみられることにも気がついた。世界中の技術者が一斉にICT諸分野の進化を押し進めている熾烈な競争の渦中にあって、東洋の文化や宗教に心を奪われる人々、自己のルーツを見直す人々。デジタル言語を共有し、多文化社会を構成する人々が、シリコンバレーという新鮮な魅力に満ちた文化社会を育んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
シリコンバレーに代表される、デジタル世代の教育観は、本研究が当初に意図した、単なる「保護者の関心」というレベルを越えて、実際に彼らがICTによって社会や文化の形を激変させてきたその方法を用いて、新教育システム構築へ向け進んでいることがわかった。そこで今後の推進方策については: 1)当初の研究企画案にそって、欧州ないしはアジアのシリコンバレー(シリコンバレー・ハンドブックには、「世界のシリコンバレー」が50都市ランクアップされている)のどれか訪問調査したい。これはサンフランシスコ・シリコンバレーのもつ独特の空気が、この地域のみの独自のものなのか、世界のイノベーション・コミュニティに共通に見られるものなのか、どこに差異があるのか、確認をしたいからである。特にシンガポールは、わざわざシリコンバレーの幼稚園に子どもを入園させる親がいるくらい、世界のシリコンバレーの文化的社会的な繋がりを示す地域でもある。 2)一方で、シリコンバレーの教育プラットフォーム調査はまだ緒に就いたばかりであり、概要を理解するためだけでも、更なる調査が必要である。 3)優先順位として、もう一歩、シリコンバレーの新学校運動を調査し、次いで、上海、北京、シンガポールのいずれかでの現地調査を実施したい。 4)調査研究報告は、すでにこの4月にアジア教育学会の研究会で調査報告を行い、7月には日本国際文化学会で研究発表を予定している。 5)今後の調査研究上の課題は、日々、進化するICT業界人の知識関心への理解と「常識」を共有するためのいっそうの研鑽が必要である。日本の教育ビジネス業界にもこの領域への関心を持つ人々が少なからずいることがわかってきたので、その人々との意見情報交換も進めたい。
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Causes of Carryover |
2016年度末の春休みを利用して(2017年3月4日ー14日)シリコンバレーでの現地調査実施したが、その分の費用(およそ48万円)が算入されていないので、数字上は81万円の繰越となっているが、実際には33万円の繰越である。手続きが遅れたことを心から陳謝したい。 この33万円に関しては、体調を崩したことに加えて、なによりも初年度の調査成果からシリコンバレーの「教育領域で何かが起こっている」感触を得たことから、米国での調査に専念し、新たに加える予定だった欧州での調査を実施しなかったことによる。そのために、一回分の海外調査旅費が次年度使用となった。シリコンバレーでの教育革新運動はさらに集中して追求すべき事態であることから、欧州調査はこの際には見送ることも考えるべきであろう。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越額については以下のように配分して、大切に使っていきたい。 1)当初の計画にはなかったものであるが、現地調査の結果、シリコンバレーを中心に、IT企業で活躍してきたデジタル世代の親達自身が「未来の学校」を開設していることがわかったので、その調査を行いたい(40~50万円の旅費調査費)。彼らは潤沢な資金を使い「既存の教育システムの改革ではなく、全くのゼロからのシステムの創造」を野心的に試行している。 2)米国西海岸に集中して調査を進めたので、それでもやはり当初の計画にあったように比較の視点を得るために、中国ないしシンガポールでの現地調査を実施したい。さらに他の研究者との意見情報交換と、さらに研究成果を発表する機会も設けていきたい。
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Research Products
(6 results)