2016 Fiscal Year Research-status Report
超高速電圧制御によるナノポア内1分子操作を利用した生体高分子の分岐構造解析法開発
Project/Area Number |
15K13294
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
武政 誠 国立研究開発法人理化学研究所, 前田バイオ工学研究室, 客員研究員 (30318795)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ナノポア / 多糖 / FPGA |
Outline of Annual Research Achievements |
固体ナノポア、つまり人工膜をリソグラフィーを駆使して作成し、そこに高輝度電子線集光により数nm程度の穴を1つ形成し、水溶液中でイオン電流を計測して、ナノポアを経由する各種分子を1個単位で識別、また分子内の構造を計測する手法の高度化に取り組んでいる。従来、ナノポアを利用した単分子計測、特にナノポアを経由するイオン電流を用いて、競合してナノポアを通過する分子の断面積評価を試みる手法において、分子の通過速度を制御する方法を見つける事ができれば、既に類を見ない分解能を誇る、分子の断面積評価に加えて、そこから約2ケタ分解能が劣る、分子の通過方向における位置決め精度の向上が見込める。昨年度に引き続き、分子がナノポアに入った、と考えられる電流変化が検出された直後に、分子が通過し終わる前に、ナノポアの両側に印加している電圧のレベルを低減させて、分子の通過速度を減少させたり、分子の通過方向をナノポアを通過する途中で逆転させる事を、電圧の向きを逆転させたり電圧レベルを変化させる事で解決すべく試行している。いずれの場合においても、予想された通り、電圧の急激な変化は、電流の過渡応答という形でイオン電流の精密な計測を阻害する事がわかった。ダイナミックレンジの広いA/D変換機を駆使する事で、ベースライン電流の急激な変動下においても、分子の通過を電流パルスとして検出可能である事を確認した。ナノポア内を通過中の分子に対して、ナノポアを通過し終わる前に、印加電圧の方向を逆転することで、分子がナノポアから出ていく事のないように工夫するという操作は、鎖長が長い高分子に対しては十分可能であったが、連続して何度も電圧の方向を逆転させることは、容易ではない事がわかった。これは、固体ナノポアを用いたイオン電流計測においては、脂質二重膜を利用するケースよりも、過渡応答に対する時定数が長くなるためであると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度と同様にナノポアを経由するイオン電流の計測を実施したが、昨年度に問題となった、設計上の膜容量と実際に測定された時定数が一致しない問題について原因を検討した結果、実際にイオン電流を計測する際の等価回路としてはナノポアを経由するイオン電流以外にも、デバイスの構造や各サイズに起因する、電気抵抗や電気容量が存在し、それらの全影響が過渡応答に現れてくるためであることがわかった。実際に、構造やサイズが異なる複数種類のデバイスで試したところ、膜の形状だけでは実測に影響する容量が規定できない事が分かった。同一行程で作成した多数のデバイス中でも、実際の膜容量は大きくばらつく事がわかった。200%程度変動してしまうことが分かった。これは、同様の構造、サイズで設計、及び加工したナノポアデバイスではあるが、シリコン基板の板厚が、デバイス間で完全に一致していない事や、またウェットエッチングの不均一性などにより、薄膜の露出面積、サイズなどが大きく影響されているためであると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
多数のナノポアデバイスでテストし、その中から性能のよいデバイスで、まずは電圧の高速変化に伴う電流の過渡応答を低減可能かどうかについて検討する。つまり、実測として膜容量が低いデバイスを探して、本研究の基本アイデアである、分子の移動速度の反転に関して実証実験をさまざまな条件において実施することを優先する。
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Causes of Carryover |
消耗品であるナノポアチップの発注(製造委託)を見送ったため。1個単位ではなく、シリコンウェハー単位での一括大量発注しか、製造技術および製造工程上できないため、少数テストにおける評価は一般的には容易とはいえない。しかし、今回はこれまでの多数のナノポアチップを製造した場合の膜容量の実績から、膜面積を低減する幾何学形状のチップを大量に製造委託したとしても、実質的に要求性能を満たすことができるチップは非常に少ないことが予想された。つまり現状のファブリケーション技術では歩留り向上には限界があると判明したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
膜容量の低減は歩留りに問題のない範囲で行い、他の方策を試みる予定。絶縁材料の膜表面への塗布、など。
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