2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K13301
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
松下 伸広 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (90229469)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 酸化鉄ナノシート / 液液界面 / ソフトテンプレート |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄オレイン酸錯体を有機溶媒に分散させ、塩基性水溶液に滴下した溶液を水熱処理して平面サイズは500 ~ 2000 µm、面積/厚みのアスペクト比で50~200程度と非常に形状異方性の高い酸化鉄ナノシートを合成した。水溶液のpH、合成温度、合成時間、ヘキサンなどの有機溶媒中でのソルボサーマル処理、有機溶媒と水溶液の体積比によって得られる酸化鉄ナノ結晶体の結晶相と形態が変化したが、その中で水溶液と有機溶媒からなる液液界面の存在が酸化鉄ナノシートの生成に関わっていることが示唆された。 金属イオン置換したフェライトナノシートの合成については、当初検討していた金属オレイン鎖錯体を用いた水熱合成法では錯体中の不純物によりシート状に形態制御することが困難であった。ただし、液液界面に界面活性剤を配向したソフトテンプレートを用いた新たな方法を開発し、同プロセスにより 2 µm程度の酸化鉄ナノシートが作製可能であることを確認の上、コバルトイオンやニッケルイオンで置換を行ったフェライトナノシートの合成にも一部で成功した。今後さらに条件の最適化を進めることにより、より高いアスペクト比を有するフェライトナノシートを再現性良く高効率で作製するプロセス条件の確立が期待される上に、イオン置換により優れた軟磁気特性や高周波磁気特性をもつフェライトシートの合成も期待される。またLLG方程式でナノシート中における磁化挙動のシミュレーション結果を得た。MFMによる実際の磁化挙動とシミュレーションとの比較はナノシートの磁気特性を科学的に解明するのに非常に重要となる。以上、新たな合成プロセスを確立する道筋が見えてきたにより、今後さらに興味深い成果が得られる可能性があることから、研究期間の一年間の延長を行ってプロセスの最適化と磁化挙動の解明を行うことにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた金属錯体ゲルの水熱処理するプロセスにより、平面サイズにして 5 µm にもなるシート合成に成功していることから、酸化鉄ナノシートについてははほぼその目的を達成したと言える。具体的には水溶液のpH、合成温度、合成時間、ヘキサンなどの溶液条件を変えることにより、有機溶媒中でのソルボサーマル処理、有機溶媒と水溶液の体積比によって得られる酸化鉄ナノ結晶体の結晶層と形態が変化することを調査した。この中で特にヘキサン中におけるソルボサーマル処理ではキューブ状の酸化鉄ナノ結晶体しか観察されないことから、水溶液と有機溶媒の液液界面が酸化鉄ナノシートの生成に関わっていることが示唆された。金属イオン置換されたフェライトシートの合成も目指したが、金属オレイン酸錯体に含まれる不純物によってシートの生成が阻害されたために合成にはシートの合成には到らなかった。そこで新たに界面活性剤が配列した液液界面を意図的に形成し、ソフトテンプレートとして用いる溶液プロセスを開拓し、コバルト及びニッケルイオンが置換されたフェライトナノシートの作製に一部で成功している。このナノシートのアスペクト比は約80程度とこれまで報告されている置換フェライトナノ結晶体のアスペクト比と比べても非常に大きい値であるなど、ナノシート合成プロセスとして十分なポテンシャルを持っていることが示唆された。 当初想定していたプロセスとは異なるものではありながらも、高いアスペクト比のフェライトシートや金属イオン置換フェライトナノシートが合成可能なプロセスを確立しつつある。延長した一年間ではプロセス条件の確立をはかるとともに酸化鉄以外のシートの合成にも挑戦する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは新たに開発した界面活性剤が配向した液液界面からなるソフトテンプレートを活用したプロセスによって、安定して再現性良く且つ(面積/厚み)の高いフェライトナノシートが合成できる条件の探索を行う。 次に、NiイオンおよびZnイオン、あるいはMnイオンおよびZnイオンを置換した軟磁性フェライトシートの合成を可能にする条件を探索すると共に、それらの磁気特性を測定する。Znイオン置換については最大の飽和磁化が得られる置換量を明らかにする。これら軟磁性フェライトの示す磁化挙動は平成28年度までに明らかになっている金属置換なしのマグネタイトナノシートのものとは異なると考えられる。そこで、磁気力顕微鏡MFMにより静磁気的な挙動に加えて、磁界印加を行ったダイナミックな磁化挙動の測定を行うとともに、シミュレーション結果との比較を行う。さらには磁気異方性を高める作用をもつCoイオン置換を行ったフェライトナノシートも合成し、これもシミュレーション結果との比較を行う。Coイオンが置換されたフェライト膜においては、組成によっては垂直磁気異方性が発現する可能性があることから、MFMによってその磁化挙動を明らかにすることは大変興味深い。 時間が許せば、層厚報告に垂直磁気異方性を持つBaフェライトあるいはSrフェライトナノシートの合成やCeO2やZrO2などのその他の機能性ナノシートの合成にも挑戦する。
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Causes of Carryover |
今年度行った研究は主に、昨年度に導入した水熱合成容器を用いて、界面活性剤によるソフトテンプレートを活かした合成実験、SEM観察、TEM観察、MFM観察に加えて、LLG方程式によるシミュレーションに関するものであったが、消耗品等が比較的安価であった上に、SEM観察、TEM観察、MFM観察などの依頼分析費などについても、担当していた修士学生が昨年度の経験から自分で測定できる様になり、大幅に経費を抑えることが出来たことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たに開発しつつあるソフトテンプレートを用いた新規溶液プロセスを確立するための合成実験に用いる消耗品に用いる。さらに多くの条件を短時間でこなすためにも昨年度導入した水熱容器を今年度も追加で購入する予定としている。また、MFM観察によって得られた磁化挙動と比較するためのLLG方程式によるシミュレーションについての打ち合わせを行うために東北大学への出張旅費ならびに成果を学会等で発表するための出張旅費も数回分必要になると考えられる。
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] 酸化鉄ナノシートの合成と特性評価2016
Author(s)
松下伸広、亀井雄樹、岸哲生、矢野哲司、谷口貴章
Organizer
日本セラミックス協会 第29回秋季シンポジウム
Place of Presentation
広島大学、東広島市
Year and Date
2016-09-07 – 2016-09-09
Invited
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