2015 Fiscal Year Research-status Report
コヒーレント縦光学フォノン-プラズモン結合モードによる周波数可変テラヘルツ波発生
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15K13341
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中山 正昭 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (30172480)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | コヒーレント縦光学フォノン-プラズモン結合モード / コヒーレント縦光学フォノン / テラヘルツ電磁波 / 半導体エピタキシャル構造 / アンドープGaAs/n型GaAs / 時間分解テラヘルツ分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ノンドープGaAs(d nm)/n型GaAs(i-GaAs/n-GaAs)エピタキシャル構造(d=100, 200, 500, 800nm)を試料として、フェムト秒パルスレーザー(パルス幅50fs、中心波長800nm)励起により発生するテラヘルツ(THz)電磁波の時間領域信号を光伝導ダイポールアンテナを用いて時間分解THz分光法(光ゲート法)により検出した。研究実績概要は、以下の通りである。 1. THz電磁波発生の要因であるi-GaAs層の表面電場(表面フェルミ準位ピニングによる)を、光変調反射分光法によって観測されたFranz-Keldysh振動を解析して評価し、d=100nmで50kV/cm、d=200nmで28kV/cm、d=500nmで11kV/cm、d=800nmで8kV/cmという電場強度が求まった。この表面電場によって、i-GaAs層で光生成された電子がn-GaAs層に向かってドリフト運動する。 2. THz電磁波時間領域信号の励起強度依存性の系統的な測定を行い、その一連のフーリエ変換スペクトルから、d=100, 200, 500nmの試料において、コヒーレント縦光学(LO)フォノンとコヒーレントLOフォノン-プラズモン結合(LOPC)モードの上下分枝[LOPC(+)とLOPC(-)]のスペクトルを明確に観測した。LOPCモードの誘電関数に基づいて解析を行い、振動数が光生成電子濃度によって決定されること、及び、プラズモン性が大きいLOPC(-)モードの振動数が2.8THzから5.0THzまで可変できることを明らかにした。以上のことは、i-GaAs層をドリフト運動している光生成電子がプラズモンとして作用していることを明示している。 3. 時間分割フーリエ変換を用いてコヒーレントLOフォノンとLOPC(-)モードの寿命解析を行い、典型的な寿命がそれぞれ0.75psと0.12psであるとの結果が得られた。LOPC(-)モードの寿命が極めて短いことの理由としては、i-GaAs層における電子のドリフト走行時間と関連していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、以下の通りである。 コヒーレントLOフォノン-プラズモン結合(LOPC)モードを周波数可変THz電磁波発生源として応用するための物理学的ストラテジーを確立することを目的とする。具体的には、i-GaAs/n-GaAsとi-GaAs/p-GaAsエピタキシャル構造を試料として、この構造特有のi-GaAs層の空間的に均一な表面電場を利用し、フェムト秒パルスレーザー励起により瞬間的ドリフト運動キャリア(プラズモンとして作用)とコヒーレントLOフォノンを同一空間で分極結合させてコヒーレントLOPCモードを生成し、時間分解THz分光法により、THz電磁波周波数の励起強度(キャリア密度)依存性、即ち、周波数可変THz電磁波発生機構を明らかにする。 この目的に対して、平成27年度では、i-GaAs/n-GaAsエピタキシャル構造を試料として、THz電磁波時間領域信号のフーリエ変換スペクトルの励起強度依存性から、LOPCモードの検出に成功した。さらに、LOPCモードからのTHz電磁波周波数が励起強度、厳密には光生成電子濃度によって決定されることを明らかにし、THz周波数可変性(2.8~5.0THz)を実証した。また、系統的なデータは今後の課題であるが、LOPCモードの寿命が0.12psとコヒーレントLOフォノンの寿命0.75psと比較して非常に短いことを見いだし(寿命は典型値)、LOPCモードのダイナミクスに関する知見も得られた。LOPCモードのダイナミクスは、LOPC生成消滅機構と密接に関連している。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1. i-GaAs/n-GaAsエピタキシャル構造においてLOPCモードからの周波数可変THz電磁波が発生することは平成27年度の研究において検証できたので、研究対象にi-GaAs/p-GaAsエピタキシャル構造を加える。試料に関しては、有機金属気相エピタキシー法によって作製したi-GaAs層厚が異なる系統的なものが既に準備できている。i-GaAs/p-GaAsエピタキシャル構造の場合、i-GaAs/n-GaAsエピタキシャル構造と比較して、表面フェルミ準位ピニングによるi-GaAs層の表面ポテンシャルが反転するために正孔がi-GaAs層を走行する。このことが、LOPCモードからのTHz電磁波発生に与える影響について励起強度依存性とi-GaAs層厚依存性(表面電場強度依存性)の観点から系統的な研究を行い、i-GaAs/n-GaAsエピタキシャル構造における結果と対比する。これによって、LOPCモードからのTHz電磁波発生に対する表面電場とキャリア極性の効果に関する総合的な知見を得ることができる。 2. LOPCモードの生成消滅機構の解明の観点から、LOPCモードのダイナミクスに関する研究を系統的に行う。具体的には、THz電磁波時間領域信号の時間分割フーリエ変換と短時間フーリエ変換(ガウス関数を時間窓としてその時間を逐次ずらせてフーリエ変換を行う)を手法として、LOPCモードとコヒーレントLOフォノンの寿命(時間分割フーリエ変換から求まる)と時間分解THzスペクトル(短時間フーリエ変換から求まる)の励起強度依存性とi-GaAs層厚依存性を系統的に研究する。これによって、LOPCモードの生成消滅過程に関する総合的な知見を得ることができる。
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Research Products
(4 results)