2015 Fiscal Year Research-status Report
人工二次元電子系を用いた実験的シミュレーション手法の確立
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15K13367
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
南任 真史 国立研究開発法人理化学研究所, 石橋極微デバイス工学研究室, 専任研究員 (90300889)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 原子操作 / 表面状態 / 二次元電子系 / 周期ポテンシャル / 局所状態密度 / 走査トンネル顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、固体の清浄表面上において、低温超高真空STM装置を用いた原子操作の手法で任意の二次元格子を形成し、人工的な電子状態を創り出す実験を行っている。基板と吸着種の組み合わせや格子の形状を変えることで、電子の様々な振る舞いを引き起こし、実験条件や観察された電子状態に関するデータベースを構築して、理論研究と物性実験の間の溝を埋める実験的シミュレーション手法を確立することを目指している。 平成27年度は、表面状態を有するCu(111)面上に吸着させたCO分子で三角格子を形成し、二次元電子系に周期的ポテンシャルを導入することでグラフェンと同じ電子状態を創り出し、トンネル電子分光により局所電子状態の実空間変化を観察した。CO分子の近傍ではポテンシャルが高くなるため、表面電子はその隙間に追いやられるため、結果的にハニカム状の領域に閉じ込められる事になる。 Cu(111)面上にCO分子の8×8構造を形成すると、このハニカムの副格子Aに対応する位置と副格子Bに対応する位置で、Fermi準位近傍の電子状態が異なることが明らかになった。一方、6×6構造の場合には、そのような差異は観測されなかった。これらの結果は、表面電子が吸着CO分子によって散乱されバルクバンドに吸収される過程により、表面状態とバルクの結合が強められた結果、表面第二層の影響が表面の局所状態密度に強く反映され、対称性が破れたことが原因であると解釈される。 これらの成果により、原子操作によって二次元格子を形成し、人工的な電子状態を創り出すという本研究の最初の目的は達成された。二次元格子の原子操作による形成は、Stanford大による先行研究に次ぐ二例目であり、今後、この手法を適用することで実験的に実現可能な系を探索し、バリエーションを増やしていくことでこの研究を発展させることが可能であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、原子操作の実験手法を確立すること、実際に人工二次元電子状態を形成しその局所状態密度を測定することなど、主たる目標は達成されたことから、まずまずの実験進捗状況であると考えている。 平成27年度の計画では、原子操作を用いる手法で、形状が完全に制御された“仮想グラフェンナノリボン”を創り、その電子状態をトンネル電子分光で調べることも目的の一つとしていた。理論計算によれば、グラフェンをナノスケールの幅を持つリボン状にすると、zigzag端を持つリボンはFermi準位に平坦なバンドを持つ金属的な電子構造になり、一方、armchair端を持つリボンはその幅に依存して金属的な電子状態と半導体的な電子状態が交互に現れる。実際のグラフェンでは、ナノリボンのエッジや幅などの構造制御を完全に行うことが難しいことから、本研究の手法でシミュレートすることで計算結果を再現出来ないかと考えた。しかし、実際にナノリボン構造を形成してトンネル電子分光を行ったが、期待されるような結果は得られなかった。本研究の手法では、Cu(111)表面状態の二次元自由電子系にCO吸着分子の格子を形成することで周期ポテンシャルを導入してグラフェンと同様の電子状態を創り出しているが、この手法では構造の端が自由電子の海に直接接続されているためグラフェンの端のようにポテンシャル障壁が存在しないことが、計算と異なる結果が得られた原因と考えられる。二次元格子の端にCO分子の壁を作ることで、計算と同じ状態を創り出すことが可能であると考えられ、平成28年度に挑戦したい。 計画では更に、“仮想グラフェン”に磁場を印加して、Landau準位の観察を試みることも目標にしていた。超伝導マグネットを使用して磁場を印加することに技術的な問題はなく、時間があれば試したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、Fermi準位付近の状態密度の低いNiAl合金単結晶の(110)面に、金属原子を配列して人工低次元構造を形成し、その電子状態を観察する予定である。NiAlは合金でありながら半導体的な電子構造を有し、表面の清浄化の方法や吸着種との結合の強さなどは通常の金属と変わらないため、本研究に用いる基板として最適である。表面を酸化させると適度な厚みのAl2O3が形成されるため、電極の付いた絶縁体基板として用いることも出来る。 本研究では、遷移金属原子を原子操作である程度の間隔で配列し、電子がhopping伝導的に振る舞う、電子相関の強い系を人工的に創り出すことを試みる。原理的には、原子の間隔を変えることで電子のsite間の遷移エネルギーを、吸着種の元素を変えることでsite上のクーロン相互作用を変化させることが出来るはずであり、原子間隔の小さい金属的な状態から少しずつ間隔を大きくしていくとMott絶縁体への転移が起きるのか、その電子状態を観測することは興味深い。また、遷移金属元素を用いることにより、各siteのスピンの大きさを系統的に変えることも可能である。これらの実験ではスピンに関する情報を直接得ることが出来れば、起きている現象の理解は飛躍的に高まるため、スピン偏極STMも試みる。また、検出するスピンの搖動を止めるため、測定温度を1 K程度に下げる目的で、冷凍機を用いる。 平成27年度にCO/Cu(111)系でやり残した実験もあるが、まずは物質系を替えて、まったく性質の異なる電子状態を人工的に創り出すことが出来るか挑戦したい。また、特に冷凍機のテストは優先して行いたい。原子操作に用いるSTM用ソフトウエアの改良なども行い、原子操作の精度を上げることや、より高度な測定手法の確立などに取り組んでから、再度CO/Cu(111)系に戻って実験を行いたいと考えている。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Impurity-induced First-order Phase Transitions in Highly Crystalline V2O3 Nanocrystals2015
Author(s)
Y. Ishiwata, E. Takahashi, K. Akashi, M. Imamura, J. Azuma, K. Takahashi, M. Kamada, H. Ishii, Y.-F. Liao, Y. Tezuka, Y. Inagaki, T. Kawae, D. Nishio-Hamane, M. Nantoh, K. Ishibashi, T. Kida
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Journal Title
Advanced Materials Interfaces
Volume: 2
Pages: 1500132(1-6)
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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